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最速の女神たち   作者: YASSI
デビュー
14/398

女王の戦い方

 チェコGPの決勝は作戦通り、スタートからポールポジションのスターシア、フロントローアウト側のエレーナ、そしてその後ろからの愛華の三人が揃ってロケットスタートを決め、一周目から先頭を苺騎士団で抑えた。

 特に、エレーナと愛華のスタートは絶妙で、ジャンプスタートではないか?とジュリーがビデオで確認しなければならなかったほどだ。

 ブルーストライプスのラニーニが三人の後についたが、エースのバレンティーナは、チェコの双子ツインに阻まれなかなか追いつく事が出来ない。


 エレーナの予想した通り、チェコの双子はコースのポイントを知り尽くしており、息の合った二人に巧みにパッシングポイントを抑えられ、バレンティーナをしても容易にかわせない。

 先頭集団にはついていけないと判断したツインは、せめてバレンティーナだけは抑えてやろうとブロックを堅めていた。それが結果的に苺騎士団を援護する形となっている。


 これまでならバレンティーナのアタックをされれば、容易に道を譲らざる得なかった彼らであったが、前回の愛華の走りに刺激を受け、バレンティーナ相手に決して退こうとしない。


 対するバレンティーナは、前戦、危険行為で失格を受けたばかりである。チームに対しても厳重注意を受けている。彼女たちはあまり強引な真似が出来なくなっていた。


 セカンドグループを脱け出せないバレンティーナたちを後目に、ストロベリーナイツはぐんぐんとペースをあげ、それを追うラニーニを含めた四人でトップグループを形勢し、後続を引き離していった。


 愛華があれほど手こずったコース後半の登り区間も、エレーナとスターシアのラインにぴったりついて行けば、驚く程スムースに走れた。


『やっぱりエレーナさんとスターシアさんは凄いです!わたし、二人について行くならどこまででも行けそうな気がします。ずっと一緒に居させてください』


 心の中で二人に語りかけていた。そして、昨日失礼な事を言った事を詫びる。やはり二人は世界一のペアであり、最高の先生なのだと改めて思い知った。

 そして、自分も少しでも二人に近づきたい、最高のトリオと呼ばれるようになりたいと願った。少なくても二人の足手まといにだけはなるまいと誓った。


 その思いを表すように、ストレートでは積極的に先頭を受け持った。ストレートなら一番軽い愛華にメリットもある。風よけしか役立つことは出来なくても、二人のために全力で風を引き裂いた。


 周回を重ねてくると、愛華にもこのコース攻略のラインが判ってきた。思いきって登り区間の先頭引きも志願する。やはり登りは軽い方が負担は少ない。愛華は覚え込んだスターシアのラインを正確に辿った。


 愛華が登りをリードする事で、トップグループのペースは更に加速した。ラニーニはたった一人で、なんとかペースを乱そうとしつこくアタックを仕掛けるが、足並みを揃えた苺騎士団の牙城に歯が立たない。彼女の力では、スターシア1人相手でも厳しいのはわかっていたが、少しでもロスさせようと果敢に挑み続けた。


 ラストラップ。

 トップグループの最後尾にいたラニーニが、ストロベリーナイツの三人にマシンを並べた。だがこれまでと様子が少し違う。エレーナとスターシアも無防備に並ばせている。愛華が不思議に思っていると、ラニーニは三人に軽く会釈すると、スロットルを弛めスローダウンした。エレーナとスターシアもペースを合わせ、左手で敬礼のようなポーズをした。愛華もやっと意味を理解して、同じように敬礼の真似をする。


 ラニーニはエースであるバレンティーナが追いつけなかった以上、トップグループにいる意味がなくなったのだ。

 エースのために先頭グループをペースダウンさせようと果敢に攻めたが、その役割を果たせなかった。

 ピットからの最後の指示はバレンティーナの獲得ポイントを1ポイントでも多くするために、自ら順位を下げる事だった。エレーナもスターシアも、ここまでひとり頑張ってついて来たラニーニに敬意を称した。


 ライバルチームのアシストであっても、一緒に走り、正々堂々と戦った彼女を称える姿に、愛華は感動した。愛華自身もその中に含まれていることに、彼女は気づいていない。

 もう一度ラニーニを振り返ると、気づいた彼女が手を振ってくれた。


「いつかラニーニちゃんと本気で競い合ってみたいな」

 愛華は一人つぶやいたが、今はまだお互いその時じゃない。今はお互いのエースのためにやるべき事をやり、学ぶべき事を学ぶ時なんだ。


 二戦続けてのストロベリーナイツの圧勝であった。今回はつけ入る隙のないレース運びである。見せ場が乏しいと言えば、そう言えなくもない。しかし、それが女王の戦い方である。


 レースファンの多くがイメージするエレーナのレーススタイルは、どんな劣勢な状況でも屈する事ない闘志で勝利を奪い取るというイメージだが、実際には今回のようなパターンの方が多い。

 劇的なレースの方が、記憶に残り易く、語り継がれるものだから、そういったイメージが定着しただけで、チャンピオンを獲るには無駄なリスクは避けるべきというのが女王の戦い方である。そうでなければ、長いシーズンを戦い抜けない。


 寧ろ、語られるエレーナの名レースほど、苦戦を強いられる状況に追い込まれた結果であり、彼女としてはショッぱいレースと言えた。エレーナ自身嫌いではなかったが、優先順位を忘れないのがチャンピオンへの道である。


 いずれにしろ、二戦続けての表彰台独占で、ひょっとしたら本当に大逆転があるのでは?と多くのファンを期待させた。


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