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最速の女神たち   作者: YASSI
フルシーズン出場
107/398

シーズン折り返し

「よくこの山猫さんをコントロール出来ましたね」

 三位の表彰台に上がったスターシアが、真ん中を挟んだ二位の台に立つ愛華に話しかけた。真ん中でうぎゃ~あ!っと暴れている山猫とは、もちろんシャルロッタである。今シーズン初のストロベリーナイツ表彰台独占で、USGPは幕を閉じた。

 ゴールした時は、フレデリカに負けたと落ち込んだシャルロッタだったが、優勝と聞かされて複雑な心境だったろう。その上、愛華までフレデリカのリタイヤに気づいていたと知ったのだから、まあ、荒れるのも無理もない。

 しかし表彰台に上がって、ステージを囲むファンから喝采を浴びているうちに、暴れているのか、はしゃいでいるのか、よくわからなくなっていた。愛華と二人でのスパートは、何度も最速タイム(ファステストラップ)を更新し、それなりに中継のカメラも追っていたので、今回は結構テレビにも映っていたはずである。基本、目立つのが大好きな山猫であった。


「エヘヘ、なんとかフレデリカさんがリタイヤしたこと、最後までバレずにすみました。でも途中で『匂いがしない』なんて言い出したときは、ほんとにびっくりしましたけど」

 愛華はスターシアに褒められ、ちょっと得意気に答えた。

「やはりシャルロッタさんは、人ではありませんね。それを使いこなすアイカちゃんも、只者ではありません。どんな魔法を使ったのですか?」

「そんなの、しないですよぉ、エヘヘ」

 スターシアが愛華を褒めるのはいつものことだが、エレーナの意図を読んでシャルロッタを導く(騙す?)ことが出来たのは、ちょっと誇らしい。まだまだエレーナさんには及ばないが、だいぶシャルロッタの扱いが上手くなった。魔法とかいつもはスルーする言葉にも、自然顔がニヤける。

「スターシアお姉様!誰が山猫ですか?人を使い魔みたいに言わないでください。アイカがあたしの下僕なんだから!あんたもデレてるんじゃないわよ!あたしだって気づいていたけど、あんたの顔を立てて気づかないふりしてあげただけなんだから!」

 確かにシャルロッタは気づいていた。冷静な状況分析ではなく、野生の直感とも言うべき嗅覚で。それをうまく誤魔化した愛華の功績はやはり大きい。挑む相手のいないシャルロッタは、ただの目立ちたがりになる。


「アイカちゃんを責めないであげてください。アイカちゃんは、シャルロッタさんの能力をすべて出して欲しかったんです」

 スターシアがシャルロッタを嗜めた。

「別に隠さなくたって真面目に走るわよ」

 シャルロッタはぷいっと拗ねた顔をして横を向いた。スターシアの顔を見たら、強く言い返せなくなる。エレーナ様の体罰には口応え出来ても、スターシアお姉様の包み込むような話しぶりには、どうにも対抗しようがない。透きとおるようなような瞳には、まるで催眠効果でもあるかのように魅き込まれてしまう。なるべく目を合わさないようにした。

「獲物を追う時のシャルロッタさんは、最強ですからね。でも途中で油断してたら、ラストでラニーニさんたちとバトルしなければならなかったかも知れませんでしたよ」

「あたしがあんなやつらに追いつかれるわけないわよ」

「あら、ラニーニさんの実力は侮れなくなってますよ。私とエレーナさんのブロックを崩したんですからね」


 シャルロッタと愛華がとび出したあと、一旦は混乱に陥ったブルーストライプスとケリーたちであったが、体勢を立て直すと五台掛かりでエレーナとスターシアにアタックしてきた。鉄壁と云われるペアも、五台掛かりでは苦戦を強いられ、ゴール直前に二人の隙を突かれ、ラニーニがエレーナの前でゴールラインを越えた。ブルーストライプスのコンビネーションとケリーの巧みさに手を焼いたのもあるが、ラニーニの実力が本物になっているのを、スターシアは強く感じた。絶好調のときのシャルロッタには及ばないにしても、油断出来なくなっている。幸いペース配分を保てたので燃費の不安はなかったが、今後アシストが愛華だけとなって混戦に持ち込まれる状況では、ブルーストライプスに対抗するのは困難となるだろう。


「ラニーニちゃん、すごい!」

 友だちのラニーニが、スターシアとエレーナの間に割り込んだと聞いて、思わず愛華が感嘆の声をあげた。

「なんで敵の活躍褒めてんの!」

 シャルロッタがポカリと愛華の頭を叩く。

「痛いじゃないですか。なにするんですか?」

「勘違いしないで。あんまりあたしが強すぎるとつまんないから、エレーナ様がお情け掛けただけに決まってるわ」

 本音は、あんまり愛華がラニーニを褒めるのが気に入らないだけだ。

「いえ、ラニーニさんの速さは本物よ。アイカちゃんがレベルアップしたように、あのコもなにかを越えたようです。あなたたちは、本当にいいライバル関係なのね」

 主人公であるはずのシャルロッタが、嫉妬の炎をメラメラと燃え上がらせようとしたところで、イタリア国歌が流れてきたので、三人ともスポンサーやタイヤメーカーから渡された帽子を脱いで、三か国の国旗を見上げた。



 表彰台は逃したものの、ブルーストライプスにとっては悪くないシーズンの折り返しとなった。

 ラニーニとシャルロッタの実力差は明らかだったが、決して届かない差ではない。何よりブロックに徹したエレーナとスターシアの間に割り込んだという事実は大きい。スターシアが感じたように、この数レースで、ラニーニのレース展開は数段レベルアップしていた。

 これまでのラニーニのランキングは、贔屓目にみてもラッキーに助けられた面は否めない。実力ではシャルロッタやエレーナは勿論、バレンティーナやケリーにも見劣りしていた。しかし実力が運に追いつくというのは、勝負の世界には稀にある事だ。

 これまでラニーニには、十分な下積みがあった。バレンティーナが抜けた事でトップチームのエースに抜擢され、ライバルたちの準備不足もあって、ランキングトップに躍り出た。それは確かにツキもあった。しかし、その強運を自分のものと出来たのは、ラニーニの強い向上心と真面目な努力があったからである。それは愛華にも共通する、競技者としての才能とも言えるのではなかろうか。

 エレーナの前でゴールしたことが、ラニーニにとって大きな自信となった。アレクセイとハンナは、これからの後半戦、シャルロッタと愛華のコンビが安定した力を発揮したとても、一方的に苦杯を舐めさせられはしないという、手応えを掴んだ。


 総合ポイントでは、まだラニーニがリードしていたが、シャルロッタが本気で走れれば、数戦で逆転できる差にまで詰まっていた。だがラニーニの調子も、これまで以上によくなっており、安定性に不安のあるシャルロッタとのポイント争いは今後も目が離せなくなるだろう。三位以下の顔ぶれと獲得ポイントを考慮すれば、現実的なタイトル争いは、ほぼこの二人に絞られたと言っていい。とは言え、すべてのライダーが、意地と誇り、富と名声、様々な思いを抱いて後半戦に臨んでいく。それらの思いが錯綜しぶつかり合いながら、どんなドラマが生まれるのかは、まだ誰も予想出来なかった。




 第8戦アメリカGP終了時点のポイントランキング


1 ラニーニ・ルッキネリ(ブルーストライプス)J

            159p      

2 シャルロッタ・デ・フェリーニ(ストロベリーナイツ)S

            143p            

3 ナオミ・サントス(ブルーストライプス)J

             96p 

4 エレーナ・チェグノワ(ストロベリーナイツ)S

             92p

5 ハンナ・リヒター(ブルーストライプス)J

             87p

6 ケリー・ロバート(ヤマダインターナショナル)Y

             78p

7 アイカ・カワイ(ストロベリーナイツ)S

             72p

8 バレンティ-ナ・マッキ(ユーロヤマダ)Y

             69p

9 リンダ・アンダーソン(ブルーストライプス)J

             67p

10 アナスタシア・オゴロワ(ストロベリーナイツ)S             

             63p

11 フレデリカ・スペンスキー(USヤマダチームカネシロ)Y

             41p

12 アンジェラ・ニエト(アフロデーテ)J

             38p             

13 マリアローザ・アラゴネス(ユーロヤマダ)Y

             28p

14 アルテア・マンドリコワ(アルテミス)LS

             20p

15 エバァー・ドルフィンガー(アルテミス)LS

             17p

16 エリー・ロートン(ヤマダインターナショナル)Y

             15p

17 ウィニー・タイラー(ヤマダインターナショナル)Y

             12p

18 ソフィア・マルチネス(アフロデーテ)J

             11p   

19 ジョセフィン・ロレンツォ(アフロデーテ)J

             9p             

20 アンナ・マンク(アルテミス)LS

             3p

21 ミク・ホーラン(ユーロヤマダ)Y

             2p


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[一言] フレデリカの手首が気にかかります。
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