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   獣傷を持つ少女

「うわあっ!」


 閃光に思わずロンドは目をかばう。

 かばいながらも、袖の隙間から光の先をどうにか見ようと試みた。


 光の中心に人影が見える。

 わずかだが、体に丸みのある人影だ。


(……女の人?)


 影はこちらへ、ゆらりと近づいてくる。


 光が少し弱まった。


 悪名高き『永劫の罪人』だ、急に暴れるとも限らない。ロンドは怯えて一歩後ずさる。


 しかし影が薄れ、彼女の姿を見た途端……怯えよりも驚きが勝った。

 ロンドの隣で、目をこすって視界を取り戻したビクターも、目を丸くしている。 


(これが、『永劫の罪人』?)


 肩先で毛先が暴れた褐色の髪。

 まだ成熟しておらず丸みの少ない体だが、胸はしっかりふくらんでいる。背はわずかにロンドよりも高い。


 無駄な肉がついていない、引き締まった体の少女だ。

 何より目が行ってしまうのは、彼女の左顔。

 整った凛々しい顔には、左まぶたから頬にかけて、獣がつけたであろう四爪の傷跡があった。

 ただ、決してそれは醜さを感じさせず、勇ましそうな顔立ちを強調している。


 まだ意識が戻っていないのか、少女は虚ろなめのう色の瞳で空を眺め、二人に何の反応も返さない。


 ふと少女が裸だと気づき、ロンドの顔はおろか、指先まで赤くなる。


 動揺するばかりのロンドに「よかったな、いいモン見られて」と言いながら、ビクターは着ていた黒の外套を少女にかぶせた。

 そして顔を隠していた布をほどき、少女の腰に巻きつけて、外套の前を閉じた。


 現れたビクターの顔は、声の雰囲気そのままの軽さがあった。

 垂れ気味の目からは群青色の瞳がのぞいている。口端を上げた表情は、飄々としてつかみどころがない。


 背中まで伸びた赤いクセ毛の三つ編みに、胸元が大きく開いた粗野な服。

 もっと格好を整えれば、街の女性が放っておかないような青年なのかもしれない。

 しかし残念ながら、不真面目そうな空気が彼の魅力を半減させている。


 少女が外套に包まれて、ようやくロンドは彼女を正面に見すえる。自分より一、二歳年上に見えた。


「あの、貴女は一体?」


 ロンドが尋ねると、少女は雄々しい口調で答えた。


「……私か? 私はマテリア」


 少女の視線はまだ空をさまよっていたが、意識は大分戻っていた。口調に似合う、芯の通った声だ。


 街で見かける同じ年頃の少女と比べ、気性が荒そうな印象を受ける。

 しかし、『永劫の罪人』という肩書きにはそぐわない。


 首をかしげるロンドの袖を、ビクターが引っ張った。


「おい少年、これのどこが『永劫の罪人』なんだ?」


「……僕も驚いています。けれど……」


 仮に彼女が『永劫の罪人』でなくとも、秘薬の副作用で悪人に変わるかもしれない。


 油断はできない。

 ロンドは息を呑み、マテリアの出方をうかがった。


 マテリアの焦点が合い始める。


 急にマテリアがハッと息を引き、虚ろだった瞳に輝きを宿す。

 彼女の身には秘薬の光が残っており、ビクターへ顔を向けると、輝きの粒が辺りに散った。


「ちょっと剣を貸りる!」


 マテリアはビクターの手から長剣を奪い取ると、一直線にロンドたちが通ってきた道を走っていく。


 何の前触れもなく静から動。

 一瞬の変化に二人はついていけず、あ然となって顔を見合わせる。


 ひと呼吸置いて、二人は我に返ってマテリアの後を追った。


「おい、ちょっと待て!」


 ビクターが叫んでも、マテリアの動きは止まらない。

 石や小枝混じりの地面を、素足で駆ける彼女の姿は獣そのものだった。


 地に足が着いていないのでは、と疑わずにいられなかった。

 ロンドの目には、彼女が空を渡っているかのように映る。


 マテリアが跳躍する。


 そこには目くらましから回復してきた賊と剣を交え、追いついた警護隊とともに奮戦しているガストの姿があった。


 跳躍の勢いに乗り、マテリアは剣を振り下ろす。


 剣の先にいたのはガストではなく、賊の男。

 不意打ちながらも、間一髪剣を受け止めた男だったが、マテリアの力強い押しに、剣は彼の手を離れる。


「な……!」


 少女に押し負かされ、男は驚きの声をあげる。

 そんな彼に現実を受け入れる猶予も与えず、マテリアは男のみぞおちを剣の柄で突く。男の身体がぐらりと揺らぎ、地に落ちた。

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