すれ違う想い
ハミルが話し終え、部屋は静まりかえる。
言葉が紡がれるのに合わせ、記憶は鮮やかに戻っていく。
マテリアは息をするのも忘れ、ハミルに視線を固めていた。
長い息を吐いてから、ハミルは薄く笑った。
「嫌なことに、死ぬ直前の記憶が強く焼きついてるんだ。君に刺されて冷たくなる私の体も、アスタロに斬られて冷たくなっていくマテリアの体温さえも……忘れるなんて考えられない」
教皇にふさわしい、すべての懺悔を包みこむようなハミルの微笑みが、今は穏やかとは思えない。
鋭い刃となって、こちらの心に剣先を突きつけられている気分になる。
「私と会うまで、ずっと私のことを忘れていたそうだね。マテリアにとって、私を手にかけたことなど、覚える価値もないことだったのかい?」
「違う!」
言葉の歯切れだけはいいが、出てきたマテリアの声はかすれていた。
「……私は死ぬ直前、今起きたことが夢ならいいと思ったんだ。ハミルが教皇になる前の、三人でいつも遊んでいた日々に戻りたい。だから、ハミルや私のしたことを忘れたかったんだ」
マテリアは胸元をつかみ、次々と噴き出してくる痛みに耐える。
ずっと感じていた違和感は、ハミルへの罪悪感からだったと、否応なしに思い知らされる。
思い出した以上は、逃げられない。
マテリアは喉を鳴らし、ハミルの瞳を真っ向から見つめ返す。
「ハミルが教皇になってから、いつも考えていた。ずっと三人で会って、遊んで、話をして……昔に戻りたかった。だからハミルを殺したことを思い出しても、ハミルと会えて嬉しいっていう気持ちは変わらないんだ」
挑むような眼差しで、ハミルはマテリアの視線に深く絡んでくる。
「私は望んでいないよ。昔に戻るなんて、考えるだけで耐えられない」
ハミルは立ち上がり、マテリアを見下ろした。
「今も昔も、私にとってあの頃は大切だけど……ずっと辛かったんだ。君との関係を変えられないことに、私は絶望していたんだよ」
「そんな……」
殺された恨みをぶつけられるより、今の言葉のほうが苦しい。
動揺でマテリアの鼓動が大きく脈打ち、体に痛みを走らせた。
言いたいことはたくさんあるのに、焦れば焦るほど言葉が出てこない。
そして、マテリアの頭が揺れ始めた。
だんだん思考が止まってゆく。
「な……んだ、これ?」
「効いてきたようだね。ちょっとお茶に、眠り薬を入れさせてもらったよ」
ゆったりとした足取りで、ハミルが近づいてくる。
逃げようとしてマテリアが体を動かすと、力が入らず体勢を崩し、テーブルに突っ伏した。
今にも閉じられそうになるマテリアの目は、かろうじてハミルの姿を瞳に入れる。
かすかに見える彼の顔は、寂しそうに苦笑していた。
「安心して。殺されたことを逆恨みして、君を殺す気なんてないから……おやすみ」
そっとハミルがマテリアの頭をなでる。
薬草採りを手伝ったとき、いつも「ありがとう」と言って頭をなでてくれた手。
すべてを思い出しても、彼の手に触れられることが好きだった。
次第にまぶたが閉じていく。
目の前が暗くなった瞬間、マテリアの意識は深く沈んでいった。




