王宮裁判記録
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ダットの街に、月が白く純真な姿を見せる。
繁華街から外れたところにある教会は、闇にまぎれた虫たちの、小さな音色だけが騒いでいた。
「ここにも……見当たらない」
教会の奥にある書庫で、ロンドはランプの灯りを味方につけて、分厚い本をめくっていた。
最後のページをめくり終え、ロンドは間を置かずに次の本へ挑んでいく。
新たな本を開くと、さっきよりも細かな字がびっしり。
思わずあくびを誘われ、ロンドは頭を激しく振り、気を引きしめる。
(マテリア……『永劫の罪人』……と。うん、ここにも載ってない)
マテリアが甦ってから数日。夜になるとロンドは寝る間を惜しんで教会内の書庫へ行き、彼女の過去を調べていた。
過去を調べると約束したこともあるが、何より自分がマテリアを知りたい。
今まで見てきた彼女は、どう考えても『永劫の罪人』という烙印が似合わない。だからこそ気になる。
教会の書庫にはライラム教の経典だけでなく、風土や歴史、英雄譚や民話など、教会や王宮に献上された書物が保管されている。
学ぶにはよい環境だが、調べ物となると量がありすぎる。思わずロンドはため息をついた。
(調べて何も出てこなければいいな。『永劫の罪人』なんて、マテリア様らしくないもの)
誰かとカン違いされた。噂に尾ビレや背ビレがついて、いつの間にか『永劫の罪人』と呼ばれるようになった。考えられる可能性はいくらでもある。
未読の本が一冊減るごとに、ロンドは安堵していく。
「うん、この本にも書かれていない」
また新たな本を手にしようと、読み終えた本を脇に置く。
そして別の本を取ろうとして、ロンドの手は虚空をつかむ。
前もって棚から取り出し、机の上に持ってきていた本は、すべて読み終わって脇に積まれていた。ざっと見た感じ、十冊はくだらないだろう。
(……今日はもう、片づけて寝よう)
こんなに読んだんだ。
読んだ本の量に驚きながら、ロンドは積まれた本をそっと手に取り、元にあった棚へ戻していく。
「あれ?」
本の山を崩していくと、下のほうに見覚えのない本が一冊。
真っ黒な表紙の、題名も書かれていない本。
(こんな本なら、一度読めば覚えてる。他の本を持ってくる時に、一緒に挟んで持ってきちゃったのかな)
これを読んだら、今日は終わりにしよう。ロンドは椅子に座り、黒い本と向き合った。
表紙をめくると、大きな字で『王宮裁判記録』と書かれていた。
はらり、はらり、とロンドが本を読み進めていく。
そこには本を盛り上げようとする軽妙な言い回しも、情景を美しくつづる文章もない。
淡々と悪事を働いた者の罪と、罪人に課せられた刑が記されているのみ。
百年前の革命期には、あらぬ疑いをかけられ、多くの無実の人間が捕えられて処刑された。そうロンドはほかの文献で調べていた。
そのせいか、冷たく硬いこの本から、彼らの悲痛な叫びが聞こえる気がした。
(天駆ける光の精霊よ、どうか彼らに救いの光を――)
耐えきれずにロンドは本をめくる手を止め、静かに目を閉じて祈る。
ランプが一瞬光を強め、祈りに応えた。
深呼吸して気持ちを落ち着けると、ロンドは再び裁判記録を読み進めていく。
本も後半にさしかかった頃。
右ページの冒頭に、『マテリア』の文字が目に飛びこんできた。
(見つけてしまった……)
動揺して震えながら、ロンドはひとつひとつの文字を丁寧に見ていく。
もしかすると、同じ名前の別人かもしれない。
しかし、そんな願いはすぐに打ち砕かれる。
『捕える際に罪人は死亡。大罪を犯した裁きを、罪人の遺体に与えるよう国王が要請。二度とこのような大罪が起きぬよう、広場にて遺体を槍で突き立て、民衆への見せしめにした』




