表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/42

   思いがけない再会

   ◆  ◆  ◆



 街をひと通り回って教会へ戻ってくると、教会の前ではおびただしい数の民衆が集まっていた。

 何とかして馬車に近づこうとするが、僧侶たちが懸命に人々を抑え、馬車の道を作ってくれた。


 馬車が無事に教会の敷地へ入ると、ハミルは内にこもった熱気を吐き出し、馬車から降りようとする。


 が、隣で動かないロンドに気づき、ハミルは小さく彼の体を揺さぶった。


「ロンド、着きましたよ」


「え……は、はい、すみません」


 我に返ったロンドだが、膝が震えて立てないようだ。

 ハミルは彼の手を取り、ゆっくりと立ち上がらせる。


「ハミル様、やっと終わったんですね。僕、恥ずかしくて……」


 未だロンドの頬は紅潮したままで、心なしか大きな瞳も潤んでいる。


 気の毒だとは思うが、今はこれ以上気づかう余裕はない。

 いつもの笑みを作れず、ハミル自身でも顔の強張りがわかった。


「あの、どうなされたのですか? そんなに思いつめた顔をされて」


「……いえ、ちょっと人々の熱気にあてられて。少し気持ちを落ち着けたいので、先にヴィバレイ様のところへ行ってもらえますか? 私は中庭にいますから、もし用があれば呼びに来てください」


 できるだけ心配させないように出した声は、普段より低くて重い声。

 これが本当に自分の声なのかと、ハミルは内心驚く。


「わかりました。ヴィバレイ様への報告は僕がさせていただきますから、ハミル様はゆっくり休んでください」


 心配そうな目をしながらも、ロンドは人懐っこい笑顔でうなずいてくれた。




 ロンドと別れて、すぐにハミルは中庭の大樹のところへ向かう。


 百年前も生えていた大樹。昔よりも大きくなったが、濃い緑を茂らせ、静かにたたずむ姿は変わらない。

 あの頃も足元に芝生の絨毯を広げ、ハミルを迎えてくれていた。


 ふと大樹を見上げると、枝の上に幻を見る。

 顔の左側に獣傷をつけた、利かん気の強い少女の幻。


(ここは百年前じゃない)


 ハミルは頭を振って、もう一度枝を見る。

 一瞬、幻はニコリと笑って姿を消した。


(これは私の願望。そして……あれも私の願望が生み出した幻)


 パレードの最中、聞き覚えのある声に呼ばれた。

 ハミルが振り返ると、建物の二階で驚いた顔をした少女の幻を見た。


(獣傷を左顔に作っている女性なんて、彼女しかいない……それだけじゃない。真っすぐでひたむきな瞳も、しなやかな体も――)


 忘れたくても忘れられない、百年前をともに生きた少女。考えるだけで胸の内が熱くなる。


 けれど、会えるはずもない少女。


 辺りの雑草にすがりつきたくなるような嘆きが、ハミルの思考をかき乱す。


(いっそ忘れさせてほしい。ずっと彼女を覚えたまま、生き続けるなんて!)


 ハミルは力なくうな垂れ、ジッと地面を見つめた。


 どこからか声が聞こえてくる。


「……ハミル」


 ハミルの耳に響く、懐かしい声。

 未練がましい幻聴かと、一人苦笑する。


「ハミル!」


 気のせいと思った声が大きくなる。

 ハミルの耳を確かに揺する、少女の声。


 いるはずがない者の声なのに……。

 ついに自分は狂ってしまったのかと、本気で思った。


 トスッ。

 何かが教会を囲む塀から落ちてくる。


 ハミルが顔を上げて、音のしたほうを見やると、見慣れた少女がこちらへ走ってきた。


 少女は跳び上がり、ハミルの元へ飛びこむ。


 きっと直前で消える幻だろう。

 そう割り切りながらも、ハミルは少女を受け止めようと両手を広げる。



 手が届く直前になっても、彼女は消えなかった。



 抱きとめた重みは予想できなかった。

 虚を突かれて、ハミルは少女に胴を抱えられながら後ろへ倒れこむ。


 幻、じゃない?

 事態が呑みこめず、ハミルの意識は白ばんだ。


「ハミル! ハミルがここにいるなんて!」


 しっかりとハミルにしがみつく力。

 のしかかった体の重み。

 次第に伝わってくる体温。


 それでも信じられず、ハミルは少女の背中に手を回す。

 彼女に触れる。消えない手応えが、ようやく疑っていたハミルの心を解いた。


「……マテリア!」


 あらん限りの力で、ハミルはマテリアを抱きしめる。


「ハミルがここにいるなんて、夢みたいだ」


「それは私の台詞だよ。マテリアがこの百年後の世界に甦っているなんて、思ってもみなかった」


 今まで鬱々として虚しかった心が、一気にマテリアの温もりで満たされていく。

 もっと彼女を確かめたい。ハミルはマテリアの頭をなで、長い指に髪を絡める。


「おいおい。聖職者のクセに、女の子に抱きついちゃっていいのか?」


 横から軽い口調の声が聞こえ、ハミルは顔を上げる。

 少し離れたところに、ロンドと見慣れぬ赤毛の男がこちらを見つめていた。


「塀の上にマテリア様の姿が見えたから、こちらに来たんですけど……えっと、これはどういうことでしょうか?」


「いやーオレもよくわからないんだが、二人は昔の友だちらしい。意外な組み合わせだよな、剣が強いガサツな農民娘と、美貌の教皇様だなんてさ」


 マテリアを抱く手を離さず、再会の喜びに浸りながらも、ハミルの目は見慣れぬ男に向かう。


(あれは誰だ? 確かパレードのとき、マテリアの隣で……彼女の腰に手を回していたような)


 歓喜の裏で、ハミルの心がざわつく。

 未だ離れないマテリアの背後に、赤毛の男が近づいてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ