秘薬の副作用
村で祭事の儀式を済ませ、ダットの街に帰ってきたのは、山際へ夕日が沈みきったばかりの頃だった。
山賊に会わなければ、もっと明るいうちに教会へ戻れたのだが……疲れた体を引きずり、ロンドは愛馬を小屋につなげる。
昼間のマテリアを思い出し、ロンドは気を重くした。
(マテリア様、辛そうだったな)
山賊を追い払った後、マテリアはダットの街に戻るまで浮かない顔だった。
しかしロンドが馬に乗るよう促しても、「これぐらい何ともないよ」と一蹴するだけで、歩くのをやめなかった。
強い人だと思う。それだけにロンドの心が痛む。
(きっと、あれが秘薬の副作用なんだ。ハミル様もおそらく……僕が秘薬を作ったせいで……)
もっと副作用のことがわかれば、彼女たちの力になれるだろうか。
だが、ライラム教の経典にも、ヴィバレイからの口伝でも、副作用の詳細はなかった。
どうすればいいんだろう。
胸が締めつけられ、ロンドは息苦しさに思わず唇をかむ。
心配そうに、愛馬がロンドへ鼻をこすりつけた。
「……ありがとう。僕は大丈夫だよ」
首をなでて飼葉を与えると、ロンドは愛馬に背を向けて小屋から出ようとする。
そのとき、中庭にある大樹の下で、ハミルのたたずむ姿を見つけた。
薄い闇がハミルの姿をぼかしていたが、それでも彼の麗しさはハッキリとわかる。
ただ、その優美な顔は物憂げで、寂しそうに見えた。
「ハミル様、どうされましたか?」
ロンドが声をかけると、ハミルはゆっくり顔を向けて微笑む。あっという間に彼が漂わせていた陰は消える。
「別に何でもありませんよ。私よりも……ロンド、貴方こそどうしましたか? 顔色が悪いですよ」
「い、いえ……」
言いよどむロンドへ、ハミルはさらに笑みで目を細くした。
「もしかして、私に何か言いにくいことが? たとえば、秘薬の副作用のこととか……」
ロンドはハッと息を呑む。こちらの心を読むように、ハミルは小さくうなずいた。
「ヴィバレイ様から話はうかがっていますが、私の身に問題はありません。むしろ調子がよいくらいです」
それはきっと、元教皇であるハミルだから。僧侶ではないマテリアとは違う。
もしかすると、マテリアのことをハミルに話したほうがいいのかもしれない。
同じ百年前の人間なら、何か知っているかも……。
そう考えたロンドが口を開くよりも先に、ハミルが「それよりも」と言葉をつなげた。
「後からヴィバレイ様がお話になると思いますが、明日、甦った私を街の人々にお披露目するため、パレードを行うそうですよ。次期教皇である貴方も、馬車で私と一緒に街の中を回るらしく――」
ハミルの声に、ロンドの頭の中が真っ白になる。
パレード……一緒に街を回る……大勢の人に見られる!
少し想像しただけで恥ずかしくなり、途端にロンドの顔は赤らんだ。
早まった動悸が、ロンドの言いたかったことを流してしまった。