九日目
翌朝、幸華が起きてこないので、記憶を掘り起こす。5年前、幸華と遊んでいた。その前から友達だったから。ところが、私は当時一
翌朝、幸華が起きてこないので、記憶を掘り起こす。
5年前、幸華と遊んでいた。その前から友達だったから。ところが、私は当時一人だけ孤児だったのでそれをネタにされ、虐められていた。
校庭の真ん中で、ドッジボールをやっていた男子グループが、端っこでバレーボールをしていた私たちの方を向いてにやりと笑い、こちらにボールを投げてくる。私は、身動きできずに立ちつくしていた。そこに、幸華が私の前に立ち、ボールを受け止めた。その時、声が上がる。
「おい、藤井、チョーシノンナ」とか、
「不幸な奴の相手しねー方がええよ。厄が移って幸せになれねーよ。」
とか何とか。
それを、幸華が堂々と、
「つーちゃんは、不幸なんかじゃないもん。」
と言ってのけた。
悪ガキどもが結託して、幸華を地面に寝かす。
みんなで、リンチらしき事をしていた。
私は、それを泣き崩れて潤んだ目で見るしかなかった。いつしかそれが毎日になっていた。
私は無力だ。
そう感じた。
そして、ある日、幸華は、私から顔を背けるようにして、倉庫の方に走り去っていった。
でも、どこに行ったか解らず、途方に暮れていた。
その時、すごい形相で走るおっさんを見かけた。
何なのだろうと思って、追いかけたら、倉庫の中に首をつった人影が見えた。
幸華だ、腹にナイフが刺さっていた。
私は、大至急、救急車を呼んだ。
その時、脈拍とかを表示する機械を手渡された。
脈拍が30である事は、かなり危険だという事は、医療知識とかの気質の私でもすぐに解った。
その後、奇跡的に、応急措置が完了した。
ただ、医者は、
「藤井さんはもう、意識が回復する事がないと思います。」
それを聞いた瞬間、私は、幸華とは、一緒に遊んだり、笑いあったり、喜びを分かち合う事はないんだと思い、かなり悲しくなった。
でも、意識は、何とか回復し、私は抱き合った。その時幸華、こういってた。
「つーちゃんは、何も…悪くないのに、いつまでも、孤児だ、だの不幸な人間だ、とか、疫病神とか言われてるのが、我慢ならなかったの。それで、おまえは、今日、ここで死ぬんだ。とか言われて、首をつらされた。それで、苦しくなりすぎて、締められる感覚が、いやで、はっきり言って早く楽になりたかった。でも、負けじゃないと思った、だって、つーちゃんが、虐められなくなるから。」
私は、そんな幸華が、愛しくて、愛しくて、力一杯抱きしめた。
「ありがとう。」
とだけいった。
そして、現在に至る。
5年たった今でも、その関係は絶たれてはいないが、少し冷え切った感じがする。
でも、その変わらない横顔に、心の中で語りかける。
私も眠くなる。
今は、まだ11:56だった。
そして、寝た。