また一度
―――気がついたら、また白の世界に引き戻されていた。
胸は苦しく、頭や背中は痛い。だけど、密かに達成感に浮かれていた。
というか、冷静になって考えてみたら考え詰めたぐらいでは急に発作は起きない。
何が原因なのかわからない。
「香奈!!」
翼が駆け寄ってくる。
私達が会うことは二度とないだろうと思った。
だけど、こうしてまた会うことができた。
だけど、あと二カ月、たった二カ月で今度は翼が退院してしまう。
対して、私は何ヶ月入院するかわからない。
知ったところで何になるのだろう。どうせこの様子では二カ月で退院など絶対に無理だ。
それに、翼と接することのできる時間は二カ月と限られている。
今更知ったところでどうでも良い。
翼を慰めることができればそれでいい。
「大丈夫?倒れたって聞いたんだけど。」
「大丈夫よ。あいにくそんなにヤワじゃないし。」
「それはそれは、健康で何より。」
「翼は苦しくないの?」
「何が?」
「ずっと、我慢してて、苦しくないの?」
聞いてからしまったと思った。これではまるで傷口に塩を塗るようなものである。
「そんな、わけないよ…」
それは、今までとは違うとてもつらそうな声だった。
「そんな訳ないよ!もっとずっと幸華と未来を歩みたかった!二人で笑いあっていたかった!!
なのにまさかこんなに早く時が終わるなんて思ってなかった!
何で、幸華にはこんなに不幸しか訪れないの?そろそろ幸せにしてくれたっていいじゃない。」
翼は私に抱きついてきた。最後の方は涙のせいではっきりとは聞こえなかったが、幸華の幸せを想っていることは間違いない。
そうなってくると、ますます医局長という人間が憎らしく思えてきた。
だけど、今は翼に寄り添うことが一番重要だ。
私は翼を泣き止むまで抱きしめ続けた。
一抹の不安を胸に。
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翼が泣き止んだ。私は翼の耳元で
「夜、私の病室にいてくれない?」
と言った。それに対して翼は
「いいけど、何で?」
と、まあ当然とも言える問を投げかけてきた。
私はその理由を答えた。
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夜、俺は包丁を持って横沢の病室に入った。
俺が、胃潰瘍を越えるんだ!そう思った。
藤井が死んだ手術室を見た瞬間、笑いがこぼれた。
次に二階から三階に上がる階段を見た瞬間、誰にも抑えることのできない台風のように狂ったように笑い出すほかなかった。
そして横沢の病室の前。俺はやはり神の笑いを上げるのだった。
「何をしてらっしゃるのですか?」
そこにはひとりの女がいた。
「誰だ?」
「あなたに殺されかけた京野香奈です。」
俺はそのセリフに恐怖を覚えた。
そんなバカな。何故あの女がそれを知っているんだ?しかもただの小娘だろ?
「そのようだと図星なのですね。カマを掛けただけだったのですが…。ひょっとすると、幸華にクスリを投与して殺しただけでは飽き足りなかったのですか?」
「チッ。いちいち面倒なナマ娘だ。……とりあえず、死ね。」
私はナイフで腹を深く刺した。すると、小娘は顔を苦痛に歪めた。俺はそれにそそられ、ナイフを納め、じわりじわりと首を絞めた。
やはり、小娘は顔を歪めた。愉快でならない。
そう気を抜いたのがまずかった。
小娘は俺の両手を抜け出した。
これでは本末転倒だ。そう思い、ナイフを背中に深く刺した。
小娘は痙攣し、動かなくなった。
俺は焦った。早くナースコールを押さねば。
だが、焦れば焦るほど大惨事を呼んだ。
小娘が目を覚ましたのだ。俺は腕をつかみ、京野香奈の病室に連行した。
そこには横沢がいた。




