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残酷な真実

「香奈、やめて。」


そう声を挙げたのは翼だった。


「夏美さんが一番苦しいはずだよ。だって、友達を殺されて、その上、その友達が加害者の母を殺してたんだから。」


「ヘタな同情なんていらないわ。」


「姉さん!!」


つい怒鳴ってしまった。


「私は何も夏美さんに媚びを売ろうと思っているわけではありません。真実を知って欲しいのです。」


姉さんは渋々といった体でそれを肯定した。


「それじゃ、皆。開けるよ。」


翼がそう言うと、ビリッという無機質な音が、虚無の空間に緊張感をもたらした。


『私は、五年前、人を殺した。それが慈身河内数美というひとりの少女を追い詰めることになってしまうとは知らずに。


だけど私にはきちんと動機があった。


私と慈身河内 有香は高校時代のクラスメートだった。


慈身河内 有香は目立つグループで私は主に目立たないグループだった。


私はやたら勉強ができた。しかし、それが仇となり、いじめられた。いや、よしんばただのバカだったとしても、地味だという理由でいじめられただろう。


彼女は美人な上に勉強も私よりでき、名門の娘というだけあって剣道九段。いわゆる文武両道というやつだ。


だんだんいじめがエスカレートしていった高二の冬、高三の春。


私は連続で学年トップだった。それが慈身河内 有香の逆鱗に触れたらしく、校舎裏に呼び出されて死にかけた。


それを一人の男子学生が助けてくれた。


彼とは仲良く暮らしてた。だけど高三の夏、彼は慈身河内 有香と付き合い出した。


私は苦しくて悔しくて勉強ばかりしていた。


そして、私は東京大学に合格した。


そこでは充実した暮らしを送っていた。だが、心の中にはいつもいじめの恐怖があった。


いつ殺されてもおかしくない。ならばこちらからと思い、一年生の秋に計画を実行した。


私は慈身河内 有香の家に忍び込んだ。



彼女は私のことを覚えていなかった。そして、私が田茅春菜であることを知るやいなや、私に罵詈雑言の嵐を吹き付けた。


高校時代からの恨みが今晴らされる時だと思い、散々いたぶった。足音がしたので一時的に止め、押し入れに隠した。


だけど、その足音の主はすぐ上に上がっていった。


私はナイフで心臓を刺した。十七回を超えたあたりから、数えるのをやめた。


最後の最後で裏切った彼にも同じ目を味わわせた。


慈身河内 有香と彼の死体は川に流して捨てた。

これが真相だ  』


余りに残酷な真実に、全員が言葉を失った。


数美が泣き出した。翼が土下座して謝っている。


翼がそんなことをする必要など全くない。悪いのはこの事件の真実だ。


めちゃくちゃだと思うが、そうとしか考えられない。


どちらも被害者である。加害者として挙げられるのは人間の醜い部分だ。


具体的には、地味な人や、少し変わった人を徹底的にハブろうとする集団心理だ。


誰か一人でも立ち上がってクラスメートで一致団結して数美の母親に立ち向かっていればこんなあまりにも悲しい結末になることはなかったのだ。


一番傷つくのは本人同士ではない。残された人たちだ。


それをわきまえて欲しく願い、二人にとても失望した。


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