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願望


「頭を上げてくれないか?」


紛れもなく数美ちゃんの声だった。


なぜだろう。彼女は私に意味もなく殴られたのだ。なのになぜ彼女からそんな言葉が出たのだろう。


「悪いのは私だ。人を殺めてしまったのだから。面目ないが電話を貸してくれないか?自首したいのだが。」


「いえ、必要ないわ。きっと黙っておく。皆も絶対言わないでね?」


彼女が警察に捕まってしまったとしたら、心の傷がきっと広がってしまうだろう。


私は春菜を許せなかった。小さな子供から親を奪うなんていくらなんでもどうかしてる。


だが、私に春菜を批判する資格などない。なぜなら私もまた、彼女を傷つけてしまったのだから。


だけど、私は心のどこかで数美ちゃんを許せていないのだ。


私は一体彼女にどうして欲しいのだろう。


償って欲しいのか、自然に生きて欲しいのか。どっちなのだろう。


償って欲しいのも違う気がする。理由はわからない。違う気がするから、違う気がするのだ。子供のような不明瞭な理由である。


自然に生きて欲しいのかというと、それもまた違う気がする。まるでそれだと春菜のことなど忘れているようではないか。


いや、実質そうなのだ。つまりそれは春菜を殺したことを忘れて今まで通り生きたいままに生きろと、そういう意味なのだ。


そんな事、絶対に認められるわけがない。


ふと我にかえると、香奈が心配そうにこちらを見てきた。


すると、その顔とあのときの春菜の様子がダブって見えた。


私は決めた。こんな禅問答のような自問自答をいったん休止して、香奈を心配させないようにしよう。


私が決意を決めると、香奈が満面の笑みを浮かべた。すると、今度は中学の時によく見せてきた春菜の笑顔とダブった。


目頭が熱くなり、思わず走り出してしまった。


私は冷たくなった春菜の身体にしがみついて泣いた。


********************

私は姉さんが心配だ。あんなに暗い顔をした姉さんを今まで見たことがない。


やはり数美のことで気を揉んでいるのかもしれない。


姉さん的には不本意な結果だろう。だとしたら妹である私が慰めねばなるまい。


私は姉さんが走り去った道を進んでいた。


少し前に人影が見えた。


あの後ろ姿は……翼だ。


春菜さんの病室だったところに着いた。


「来ないで!!」


という金切り声が聞こえてきた。


シチュエーションから察するに、姉さんの声だ。だけど、あんな声めったに聞かない。


つまり、姉さんはそれほど追い込まれているのだ。


私は翼に続いて春菜さんの病室だったところに入った。


そこには泣きながら横たわっている翼と、心底イラついた表情の姉さんがいた。


翼が泣いているのは絶対姉さんのせいだ。


私の中で、何かが切れた。


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