有りもしない希望
私は迷っていた。
過去の苦しみをいまここでさらすのか。
私が頑なになってしまったのもそれのせいだ。
いや、それだけではない。彼女が友達に優しさを向けられているのに羨憎したのだ。
だが、彼女の医師にはまた違った優しさを感じた。
自分をないがしろにしてまで彼女を守ろうと思える。なんと素晴らしい優しさなのだろうか。
事が事なため誰にも話さなかったが、あの医師だけには話そうと思う。
私は夜、あの医師を呼び出すことに成功した。
「あなたはこないだの白髪の子?どうしたの?」
白髪、という言葉に体がこわばった。あのことが鮮明に思い出された。私はそれをこらえた。
「昔のことを話したいです。あなただけに。」
「私だけ?他の皆じゃ駄目なの?」
「同情されるのがいやなんです。」
「ただ同情するだけじゃないわ。きっと怒りに震えると思うわ。」
何故か妙な言い回しに思えた。きっと怒りに震える?
いかにもあのことを知っているような言い回しだ。
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二時間前、里奈は白野と会っていた。
里奈は
「ちょっと来て欲しいの。」
と白野に呼ばれ、屋上に行った。屋上は台風の影響でかなり痛々しい姿だった。
「用って?」
「私の子供のことで話したいことがあるの。実は――――――――――」
里奈はその話を聞いて絶句した。そして激怒していた。
だが、殴れなかった。何故なら自分が白野の立場だったらそうしてしまうと思ったからだ。
里奈は黙ってその場を立ち去った。
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結局、彼女をはじめとする七人が私の話を聞くことになった。
思い出したくない。体の節々が痛くなるような気がした。
しかし、その一方、話せば気が楽になるかもしれないと期待している自分もいた。
そんな混ざりに混ざった自分を助けてくれたのは彼女だった。
「大丈夫、途切れ途切れでいいから話して。私達はあなたの味方だよ。」
生まれて初めて受け取った、私だけに贈られた優しさ。
私は、話さなければならない。という使命感に支配された。
「私は、色を持たずに生まれた。そんな私を気味悪がった両親が私を虐めた。何年経ってもそんな状態。学校には一週間で行かなくなった。家に帰れば両親のサンドバッグ。そんな生活に嫌気が差して、死のうと思った。だけど、何度やっても気が付けばまた両親のサンドバッグ。ついに両親が飽きてくれて、私は九歳で袋に入れられて捨てられた。でも私は何とか生き延びて下小田井駅近くの川岸で保護された。
だけど、両親が会いに来ることはなかった。だからそのまま施設暮らしをした。」
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私は絶句した。それと同時に憤怒した。
だけど、何処にもぶつけようがなかった。なぜならその両親がどこにいるか全くわからないからだ。
彼女の話は続いた。
「この年になるまで全く親に会いたいとは全く思わなかった。だけどあなたたちが助け合っている姿を見て、生まれて初めて親に会いたいと思った。」
彼女は態度こそ冷たいが本当は優しさ溢れる人なのだろうと思った。
態度が冷たくなった理由もわかる。本当は暖かい人なのだろう。しかし、暗い過去によって心を閉ざしてしまったのだろう。
そんな時、里奈さんの口から俄には信じられないような言葉を聞いた。
「あなたのお母さんに、会うことができるわ。」
え!?




