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誤解

幸華の思いを知れば知るほど、手紙に近づけなくなった。


「怖いの?」


突然、香奈が入ってきた。


「怖いって何が?」


「例えば幸華があなたに遺したものがとてつもなく重いものだったら?」


そうなのかもしれない。深層心理は自分で気づかないものなのだ。


幸華の強い気持ちを受け止めることが出来ない情けない自分がふがいなくて、涙がこぼれた。


「翼、どうしたの?」


いつの間にか来てたらしい沙耶が心配そうに声を掛けてくれる。


けれども、私の涙は止まらなかった。


********************

俺は夏期合宿により、明智にいた。だが、なかなか寝付けなかった。翼が心配だから。


翼が心を痛めて泣いているかもしれない。そんな時にのうのうと夏期合宿に出ていることなど出来ない。


なぜなら俺は翼の恋人だから。俺はまた翼を裏切るのか?


どうする。どうすればこの合宿から逃れられる?


こうしている間にも翼の中の闇は翼の心を蝕んでいる。体をも蝕み始めるのは時間の問題だ。


見つけた。逃れる術を。


俺は旅館備えつけの電話で自分のケータイにかけた。


「もしもし遠野です。何!?交通事故!!今から病院に向かいます。」


そう。身内が交通事故にあったことにすればよい。


「遠野君。早めに帰りたまえ。御親族が待っていらっしゃるだろう。」


作戦成功である。案外簡単に騙せたものだ。そう思いながら病院に向かった。


―――案の定、翼は泣いていた。その横には心底狼狽した様子の香奈と女の子がいた。こっちを見るやいなや立ち去っていった。おそらく気を遣ってくれたのだろう。


俺は翼を抱きしめた。色々な辛いことを全て受け止めて来た体を。


―――二人は言葉を失った。場の空気が二人だけの物になったかのように穏やかだった。

********************

涙がこぼれてくる。だけどそれは悲しみだけの涙じゃない。裕也が来てくれたことが嬉しくてたまらない。


暖かい唇の感触が伝わってくる。


幸せいっぱいとはいかない。やはり幸華が抜けた穴は大きい。


それでも、立ち直れそうな感じはする。


私は一人では生きて行けないだろう。


誰だってそうなのだ。一人で生きて行けるような完璧な人間はいない。誰かの助けがあるから生きて行けるのだ。


例え、沙耶であろうとも。


彼女は完璧だと思っていた。だけど誤解だったようだ。


彼女はさっきうろたえていた。どうしてよいのかわからないという体で。


私達の絆は、更に深まった。


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