二十八日目
私は紙をめくった。そこには幸華が書いた詞が書かれていた。
OMOIDE
1.日々はもう 遠ざかってゆく
そしてもうさかのぼれない
信じて来たけど もうだめだと思った
それでも 時間は 遠ざかって花と散る
あなたと いた日々は もうどこにもないけれど
それでも 思い出はまだ 残ってる
日々はもう 遠ざかってゆく
そしてもうさかのぼれない
だけどそれはかけがえのない
思い出だっていう証拠
2.歩んできた道を ソッと振り返って
そしてそれが どんなに短いかを知った
あなたが いてくれたから 今の私がある
あなたに 一度だけ伝えたい ありがとうと
例えあなたに伝えたかったもの
それが無碍にされたとき
私はこれ以上ないほど 深い悲しみに包まれる
短く消えてしまいそうな命だけれど
あなたと一緒に居れて
とても幸せだったと思っている
遠い空で
日々はもう 遠ざかってゆく
そしてもうさかのぼれない
だけどそれはかけがえない思い出だっていう証拠
だから 忘れないで
私は衝動に駆られた。
隣には幸華が書いた手紙らしき物がある。
しかし、まだそれを見る勇気はない。
でも、もし幸華の強い気持ちがこもっていたら?
もう一枚の紙を夢中になってめくった。
届く思い
1.いつかは届く この願い
届いて欲しい 風に乗って
いつかまた 会えると信じて
歌に乗せて 届けたけど
もう無理だと悟った時
とてもむなしかった
2.苦しくて どうしようもないとき
あなたが浮かぶ不思議と
大事なものを落としてから
2ヶ月になる この夏に
高く上った 太陽は
キラキラと 輝いた
願わくば あの交差点で
きちんと 言いたかった
いつかは届く この願い
届いて欲しい 風に乗って
また会える日を 待ってるよ
今も 生きたいと 頑張ってる
いまここで
私は涙を堪えることはなかった。溢れた涙はたった一人だけの病室に星となり輝く。
病室に泣き声がこだまするが、私は幸華の手紙を見るまでには割り切れていない。
私がその手紙を見たら、彼女の死を認めてしまう事になる。
だから、まだ見ることは出来ない。
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私は気を揉んでいた。翼ちゃんの悲しみで滲んだ心が少しでも回復しているか、気がかりで仕方ない。
でも、こればかりは私だけで何とかできる問題じゃない。翼ちゃん本人がどう思うかだ。
友人を亡くすことは大きなダメージを負うものだ。
翼ちゃんがそのダメージを負うのは、あまりに早すぎた。私ですら耐えきれない。自暴自棄になってもおかしくない。
私はいても立ってもいられず、翼ちゃんの病室を覗いてみた。
翼ちゃんは声を押し殺して泣いていた。
声をかけたいが、怖くなりそれもできない。
私も陰で声を押し殺して泣いた。




