二十五日目
幸華の特技として特筆すべきはやはり立ち直りが早いことだろう。
彼女が咳き込む音が響き渡る。そう、彼女は気を張りすぎた。
それがガンの成長を増長させた。だがしかし彼女は書くことを止めなかった。なぜなら彼女は確かにこの世界にいたんだということを書き残したかったからだ。
紙にこすれて少しずつ芯が削れてゆく。削れているのはペンだけではない。
彼女の命もまた、少しずつ削れていっているのだ。
やがて詞は書き終わった。その内容はこれだ。
1.晴れ渡った日 笑顔が浮かぶ SUNNY DAYいつの日か 思った 一緒に未来を歩みたい TOGATHER
そんな 淡い願いは 打ち砕かれた BLOKEN
私は知ってる 君が抱えてる傷を
そんな傷も いつの日にか 治る日が来るさ
だけどその傷の 痛みを 私は知らない
そんな 傷を 君が抱えるのは 早かった
EARLY
2.雨が降った日 涙が浮かぶ CLING DAY
いつの日か 思った 一緒に夢を追いたい TOGATHER
そんな 淡い願いは 打ち砕かれた BLOKEN
私は知ってる 君が抱えてる思いを
そんな思いも いつの日にか 忘る日が来るさだけどその思いの 苦しみを 私は知らない
そんな 思いを 君が抱えるのは 早かった
EARLY
私は 君の全てを知ってる
だから君は 一人じゃない NOT LONELY
私は 知ってる 君が抱えてる傷を
そんな傷も いつの日か 治る日が来るさ
だけどその傷の痛みを私は知らない
AH
私は知ってる君が抱えてる思いを
そんな思いもいつの日か忘れる日が来るさ
だけどその思いの苦しみを私は知らない
そんな思いを 君が抱えるのは早かった
EARLY
OH YEAH
まだみぬ明日へと
この詞に書いてあるように彼女は翼の全てを知っている。
だから彼女は翼の一番の親友でいられる。彼女が頑なになったのも、香奈と翼を和解させようと、自分を悪者にしようとしたからだ。
そして思惑通りそうなった。
彼女は詞の次に何かを書いた。その何かは後になって翼が目にすることになる物である。
翼が入って来た。彼女は一時間ほど前、目覚めたのだ。
「あのさ。虚しくない?」
「何が?」
「来るはずない未来にすがりついてんのがさ。」
その言葉は彼女の心を突き刺した。そして言葉の刃は暴走し、彼女の心を引き裂いた。爪痕をくっきり残して。
彼女は何も言えなくなった。彼女の目の前には何もないが、彼女には確かに見えていた。
『来るはずない未来にすがりついてんのがさ。』
と言って彼女を憐れむようにみている翼が。
悲しくないはずがない。なぜなら一番の親友だった翼に最初に自分の未来を否定されたのだから。
もう一度彼女はその空間をみた。しかしそこにはもう何もなかった。
その時、彼女はゆっくり地に伏した。
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私は自分が言ったことをもう一度反芻する。
『あのさ、虚しくない?』
『来るはずない未来にすがりついてんのがさ。』
自分がしてしまったことの重さに気づいた。
私にできることがあるのか。もしあるとするなら、幸華が倒れたことを伝えるだけだ。
そう思い、ナースコールを押した。
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その頃、酒井里奈は遠野裕也と向き合っていた。
「ごめんなさい!!」
酒井里奈は土下座をして謝った。
「二度と翼を裏切らないと誓うか?」
「うん。誓うわ。」
二人のわだかまりは完全に解消した。
その時、一人の女が走って酒井里奈の方に向かってきた。
「あなたの連れの藤井さんが倒れたの。あなたの力が必要なの。」
「私なんかじゃ足手まといよ。」
「違う。お願いだから来て!時間がないの!!」
彼女は酒井里奈を全面的に信頼したようだ。
暗い闇夜に一人の少女は峠を迎えた。




