二十四日目
人影が動いた。その首からもう一つ頭がひょっこり現れ、人影が太り、そしてもう一つの人影が姿を現した。
部屋の明かりを付けた。その人影は裕也君と……知らない中学生だった。
「裕也君。」
「何用だ。犯罪者。」
その声には感情がこもっていなかった。むしろ明確な殺意が感じられた。
裕也君が担架の取っ手を握り、優しい手付きで翼ちゃんをベッドに下ろした。
その時の顔には温もりのある笑顔が浮かんでいた。
そして再び私の方を向くが早いか、私の肩を掴んだ。
「お前さえいなければ翼はこんな姿にならずに済んだ。なんでお前はこんなふざけたことをしたんだ!」
その問いは私の心に突き刺さった。彼女を想う真っ直ぐな気持ちが伝わってきた。
だが、それは私の喉までも抉った。何も言葉が出てこない。
「やめろよ先生。外面美女をゆすってるヤクザだぜ。」
中学生が口を開いた。
「伊田見−−−−。お前には言われたくない。」
どうやらこの中学生は伊田見というそうだ。
「酒井里奈。貴様だけは絶対に許さない。目には骨を、歯には命を。二度と立ち上がれると思うな。やられたら例えどんな状況だろうと、どんな相手だろうとやり返す。反撃だ。」
彼は本気だろう。翼ちゃんの復讐を成功するまで私を許さないに違いない。
きっとそうだ。だって彼は世界で一番翼ちゃんを愛している人だから。
私はいつの間にか寝てしまった。
しばらくして、不意に物音がした。私はその音で目が覚めた。
翼ちゃんが目覚めたのだ。そして、麻酔が残っていたらしく、またすぐ寝てしまった。
明日、彼に謝ろう。私のしたことの全てを。ただ、私は命を捨てることはしない。
誰にも心配されない程度に償う。それが一番いい。
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そのころ、隣りのベッドでは幸華が起き上がっていた。
久々に目に移る光景を懐かしんでいる様子だ。
そして彼女は歌詞を書き始めた。シャープペンシルが紙に当たることで生じる無機質な音が静かな病室に響き渡る。
そのペン先は彼女の向こうにある未来に向いていることだろう。
そう、彼女が行くことのない未来へと。
カツッ、という鋭い音が彼女のいる世界を揺るがした。
そう、彼女は行き詰まった。自信をなくして。
ガンッ、という鈍い音が彼女の壊れそうな心にヒビを入れる。
そう、彼女は絶望した。自分に時間がないことに気がついて。
彼女の泣き声のみが病室に響き渡る。




