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二十三日目

気づいたら私は翼ちゃんの隣のベッドに寝かされていた。


「無茶しすぎです。いつから食べてないんですか?」


と香奈ちゃんに言われた。確かに無茶しすぎかもしれない。だがしかし、これが翼ちゃんへの仕打ちの償いになるのなら、自分の命を捨てる覚悟だ。


「いくら償いとはいえど、やりすぎたら逆に悲しみます。何も命を捨てる覚悟でしなくてもいいのでは?」


「そうでもしないと私の気が済まない。」


「結局あなたの勝手な我が儘じゃないですか!!そんな事がまかり通るわけがないじゃないですか!!私たちがどんなに心配したと思っているんですか!!!翼だって今の里奈さんを見たらきっと心配します。」


「ごめんなさい。……そういえば翼ちゃん、いつ手術したの?」


「翼は首にフェンスが刺さってからずっと手術されてないですけど?」


そう。あの時はあの女に乗せられて激昂していたためそのまま流したが、よくよく考えてみれば翼ちゃんはフェンスを取っていない。

つまり翼ちゃんは全く手術をしていないということだ。あの女が私を嵌めたことになる。

大方口論に勝ち目が見いだせなくなったのだろう。呆れるぐらいに弱腰だ。そんなことなら端から喧嘩をふっかけてこなければよかったのに。


ヒクっ。


僅かにそんな音が聞こえてきた。一度だけではない。何回も何回も重ね重ね聞こえてきた。


翼ちゃんが痙攣をし始めたのだ。


翼ちゃんのものだと確信した瞬間、胸がしめつけられるような心持ちになった。


助けねばと思うも、全くもって体が動かない。こんな時に自分は全く無力だ。


医者という立場にありながら私は人を助けるための行動を一切できなかった。


無機質な電子音が胸を裂く。


心停止。


たった三文字の言葉に鈍い痛みを覚えた。


僅か先には死が見える言葉。


涙が落ちた。私の無力さに。できることなら死んでしまいたい。だけど、それはもう責任を投げ出すのと同じ事だ。


医者になりたいと願ったのは私だ。それを投げ捨てるなんぞとんでもない事である。


なぜなら、私には償う義務がある。


その時、まるで春一番が吹いたような爽やかな気持ちになった。


私は翼ちゃんを担架に乗せて手術室に運んだ。まだ間に合う。


「一、二、三。」


懐かしい掛け声だ。この掛け声でやっとこの職業に戻れた気がする。


今はそんなことを言っている場合ではない。翼ちゃんを助けねばならない。


「酒井、心肺蘇生。」


私は心肺蘇生に入った。だが、なかなか翼ちゃんは戻ってこない。


私の中に焦りが芽生えた。それでもこの手を止めることはできない。


腕に命の重みがかかる。その手のひらにも命のぬくもりを感じる。


ドクン、と。


それは私にしか聞くことのできないような小さな音だった。だが、その音には大きな意味があった。


私は医者として翼ちゃんを守ることができた。


私は翼ちゃんを病室に運んだ。


そこには一つの人影があった。


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