二十日目
「里奈…さん」
間違いない。里奈さんがそこにいた。
里奈さんが私を抱きかかえてくれる。
「あんな事してごめんなさい。私が間違ってた。かばってくれたのに、あんなにひどいことを………。」
里奈さんは泣いて謝った。心の声が許すなと言っている気がした。
私は身震いした。里奈さんが悲しむような表情をした。そして私をベッドに下ろし、立ち去った。
里奈さんに一体何があったのだろう。
「里奈さんは苦しんでいた。あなたに拒絶されるのを怖がってたわ。そして反省しているみたい。慰めろなんて言ってない。ただ里奈さんの気持ちもわかって欲しいだけ。」
私は里奈さんを不安にしてしまったのだろうか。
不安にならないはずがない。あんなに私のことを心配してくれた人だから。
謝るべきだ。私は決意した。そう決意したら、周りの空気が爽やかになったような気がした。心の声も消えていた。
里奈さんが辿った道を歩んだその時、気のせいだろうか、風が強くなってきた。
私はそれを無視して行くべき道の先を急いだ。
里奈さんは病院の屋上にいた。
「翼…ちゃん」
里奈さんは私に気づいてくれた。
お互いに帰ろうとしたその時、みしっ、という音が聞こえた。
気のせいだろうと思いたい。だが、そんな希望をあざ笑うかのように屋上のフェンスが飛ばされてきた。
原因不明の脅威に怯える以外に何もできなかった。
遠くで何かが巻き上げられていた。これではっきりした。脅威の正体は台風だったのだ。
だが、正体を認識したところで何も変わらない。
むしろ恐怖が凄みを増した。体が宙を舞いかけた時、誰かが私を受け止めてくれた。
最初は里奈さんかと思ったが、違った。里奈さんは屋上のフェンスに掴まっていた。
そのフェンスの片方が風の勢いに負けて折れた。
私はその体を掴んだ。風の元凶はすぐ近くにいた。そういえばこの一カ月ろくな目にあってない。
さらわれたり殴られたり裏切られたり撃たれたり。最後の一つなんて体験したことのある人は少ない気がする。
そのうちの二つは里奈さんにされたことだ。だがしかしなぜだろう、里奈さんの事を嫌いにはなれない。
絆というのは、喧嘩しても、人間関係的に疎遠になっても、物理的に遠く離れても、想い合ったり、仲直りできるうちは途切れていない。そういうものだ。
だから嫌いになれないのだと思う。
私達の頭に何かが近づいている。その時とっさに二人を守りたいと思った。
音を聞くまでもなく、私の首に何かが刺さった。そのまま気を失った。




