十六日目
私は、少し遅く起きた。
幸華はまだ寝ている。
私はまだ、幸華の事を許していない。
もっとも、私がとっくに、両親と死別しているというのもある。
それは、まだ私が小さい頃のことだった。
あの日、私は両親と共に、横浜ランドマークタワーに向かっていた。
その時、突如大きなトラックが私たちを襲った。
ガーンという大きな音が車の中に鳴り響き、車の窓ガラスが割れて、道路に散乱した。
トラックのタイヤが私の顔に当たる。
すると、前の方から血しぶきが上がる。恐る恐る前を見ると、動かなくなった二人の…
いや、二つの肉の塊があった。
目の前が真っ白になる。そして、私は声を上げて泣いた。
そのとき、後ろの方で火の手が上がった。トラックの積み荷が燃えたのであろう。
バチバチと音を立てて燃えさかり、盛んに燃え広がっていた。
そして、何かが私の頭にのしかかった。トラックの床下器具であることは今でこそわかる。
そのうち、それがどんどん重いものに変わり、しまいには車をつぶすほどのものになった。
ギーという音とともに、もう車のいすに座っていられないほどの高さになっていた。
私は、その下にしゃがむ。
そして、ドーンという音と、ガチャンという音が混ざり合い、白いコンクリートの塊が私の頭の数ミリ上に落ちてきたのだ。
すぐに伏せたが、多少息が苦しい。そのときは地面と近いせいだと考えていたが、今では煙が蔓延したせいだとはっきりわかる。
しばらくしてウーウーというサイレンが聞こえる。助けが来たと幼くも察した。
そこでほっとしたのか、私の意識はシャットアウトしていた。
目を覚ましたが、私は未だに火の中だ。どうやら作業が難航しているようである。
しかし、長い作業でも火はまだ収まらない。幼心ながら、死を覚悟した。そして、私は意識を失った。
気がついたら、ストレッチャーの上だった。医者たちの荒い息づかいが聞こえた。
私の息づかいも荒いのを感じた。そして、麻酔により私は眠った。
再び目を覚ますとベッドの上だった。白くて清潔なベッドが私の心にとげを刺す。
私の両親が死んでしまったことは明らかなのに、気遣ってそのことをいわない医師にいらだつ。
本当は、そこに怒ってはいけないことは十分に理解していた。でも、その後いじめを受けたことを昔の私は医師のせいにしていた。それはいくらごめんなさいと謝っても、いくら土下座して謝ったって許されない罪深いものなのだと私は理解していた。
さらに、今では理解しているのに、そのような罪深いことをしていることは、人間として、いや、この夜に生きる生き物として許されざることだと思っている。
それは、幸華に対してもそうだろう。私は幸華は日々の苦痛に耐えながらも何とか生きている。それを理解できているのに、八つ当たりばっかり最悪だと思う。そう、情けなくて涙が出るくらい。
回想から抜けると、幸華の枕元に、カセット・テープと何かが書いてある紙があった。
そこにはこう書いてあった。
あなたへ
あなたはどんなにつらい思いをしているか
わからないあたしにいらだつときがある
あなたは時々あたしに当たるときがある
でもそれは あたしにつきっきりで
日々悩んでるから
la la la
がんばれと心で伝えるあなたに
あたしもがんばれと返す
まけるなあなた まけるなあたし
あたしの命はあとわずか でもあなたは励ましてくれる
あたしの日々は毎日戦争生きるか死ぬか
わからない日々たちにいらつくときがある
あたしは時々あなたに当たるときがある。
でもそれは あたしが苦しくて
息苦しいから
la la la
虚勢を張る意地っ張りなあなたに
なによあんたなんてと返す
がんばれあなた まけるなあたし
あたしの心はずたずた でもあなたは遠慮しない
そんな日々を送れるのも
すべてあなたがそこにいてくれたから
(1番のさびの繰り返し)
(2番のさびの繰り返し)
ありがとうさけぶよあたし
無視するあなた
そんなあなたが少し好き
詩かとおもったがカセット・テープから幸華の歌声が聞こえてきたのでおそらくこれは歌詞と思われる。
私は、感動して泣いた。
そうして今夜は過ぎ、私は眠りに落ちた。