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十五日目

朝起きると、里奈さんが朝食を作り、幸華が笑っていた。

当たり前の日常がうれしく思えた。

しかしその後、幸華が倒れているのを見た。

私はその体を揺らそうとした。

そこで、里奈さんが

「揺らしちゃだめ、救急車呼んで、早く!」

私は急いで携帯のキーを押し、病院に電話をかけた。

「もしもし、鳩和病院院長猪沢浩一です。」

鳩和病院?どこ?

戸惑っている私を見かねたのか、里奈さんが私の携帯をとって、

「はい、酒井里奈です。患者は藤井幸華です、呼吸はわずか。」

といった後、電話が切れた。

「ごめんなさい。」

里奈さんに謝られたが、訳がわからなかった。だって、里奈さんは悪くないのに。

なぜあんな病院に電話がかかったのか、よくわからなかった。

いろいろ考えていたら、いつの間にか、病院に着いてしまった。

そこはまるでできたばかりのような病院でゴミ一つ落ちていない。

私はベンチに座り、応急手術を応援した。

しかし、窓から見える暗がりに、いつの間にか日の光が差し込む。でも、まだ手術は終わっていない。そして、窓から見える大陽が前より少し上った頃、手術が終わった。

その後に、椎川という副院長に、私だけ診察室に呼ばれた。

そして、

「肺器移植手術のドナーになっていただけませんか?」

いわれたときには意味がわからなかった。ハンサムで、ほっそりしてて、一見軽そうな印象を受ける顔とは裏腹に、真顔でいわれた。

「どういうことですか?」

私は思わず言い返してしまった。

「説明いたしますとね…。藤井さんの胃がんは進行が早いタイプのスキルス胃がんです。手術での取り出しは難しいです。さらに、肺がんは末期がんで、手術での取り出しは不可能です。なので肺だけでも救いたいのですが…。」

「なぜ私なのですか?」

思わず聞いてしまった。

「一応面識がある方がいいと思って。受けていただかれますか?あなたのお友達のために…。」

私は考える。

私は肺を失う。それが何を意味するか。

呼吸ができなくなる。つまり死ぬ。

私は、幸華に命を差し出すことになる。

はたして、そこまでする必要があるのか。

そもそもあいつの肺がんはあいつ自身のエラーである。なぜならあいつはたばこばかり吸っているから肺がんになったに違いないのだから。

「お受けできません。」

「じゃあ、もういいです。」

少しいらだちを覚えた声で彼は言った。

何も後悔などしていない。だって私は正論を持ってその結論を出したのだから。

私は、病室に戻った。

やはり、幸華の呼吸は苦しそうだ。

ただし、かわいそうとは一言も思わなかった。どうせあいつの自業自得なのだから。

そして、幸華のお母さんがやってきた。

ベッドのそばに箱を置くと、私をにらんで帰って行った。逆恨みの代表的なものである。そして、しばらく時間が経った頃だった。

看護婦がつげに来た。

「藤井さんのお母様が亡くなられたそうです。」

私は、意外に思った。なぜならば、さっきまでぴんぴんしていたからだ。

どうやら、死因は交通事故死のようである。

そして、肺がんを発見したということである。

私はとっさに、あいつの顔を思い浮かべた。

絶対にあいつが移したに違いない。そう思った。

その上、自業自得の病気のせいで、親の葬式にも出られないなんて、とんでもなく親不孝なやつだと思った。

できることなら、こんなやつの看病など、とっとと放り出してしまいたいぐらいである。しかし、こいつとの楽しい思い出も数え切れないぐらいある。放り出したらもうこいつは死ぬ、そんな状況である、私にも未練がある。そんな気持ちで私は寝た。

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