十三日目
私は、朝を迎えた。久しぶりに動かすからだがポキポキと鳴る。
里奈さんが朝食を作ってくれている。当たり前の日常でもありがたく思える。
私は、ここで一つ疑問が浮かび上がる。
「私はなぜここに来れたんですか?」
今一番聞きたいことだった。
「すごく危険だった。病院をコンビニに変えるという土台めちゃくちゃな元院長たちの野望に腹が立って、それであなたたちを背負ってヘリコプターで逃げた。でも…見て」
と里奈さんは自分の腕の部分を見せてくる。その傷口はとっくに見えなくなっていた。それぐらいに撃たれた後の傷は深かったのだ。
「ごめんなさい、私のせいで。」
といって涙ぐむ私を里奈さんは抱きしめてくれた。
「良いの、良いのよ。」
という優しい声が私を包み込む。私は里奈さんの愛を感じ、涙を止めた。
そして、里奈さんに誘われて、一緒にニュースを見た。強姦事件だとか、強制わいせつ事件だとかの後に、里奈さんが身を乗り出した。
「次のニュースです。沙吉田病院の院長二階堂恒夫氏と副院長二川洋一氏が患者を皆殺しにしようとし、逃げ遅れた足をけがしている?井麗子さん十七歳に対し性的暴行、暴行、強制わいせつをした後、ナイフで刺したとして逮捕。現在、わいせつ罪、傷害罪、強制わいせつ罪に問われています。さらに、それを促した幹部ら約60名の処分につきまして、始末書約20枚を書かせた後、査問会を開く予定です。さて、逃亡を促し、少女たちを助け、警察を呼び、窮地を救った看護婦の酒井里奈さんに話を聞いてみたいと思います。
現在、皆実町六丁目にいます朝倉さんが取材します。朝倉さーん。
「はーい。朝倉でーす。」
ここって…この近く…。
するとすぐ
「酒井さんのお宅でしょうか。あなたが勤めていらっしゃる沙吉田病院の院長と副院長が逮捕された件についてお話を伺いに来ました。」
里奈さんはドアを開けて対応している。
それを聞いているうちに真実が分かり、さらに里奈さんの愛の深さを実感した。
そして、思っていることをそのまま伝えようと思いきや、黒電話のチャイムが響く。
「あ、はい今そちらに伺います。」
という里奈さんの声と同時に、通話が終了した。
「どうしたんですか?」
私は反射的に聞いた。
「幸華ちゃんの意識が回復したそうよ。よかったわね。」
と、微笑んでくれた。
そして、私たちは、広島電鉄に乗った。
私は、そこで本音を言うことにした。
「ごめんなさい。わたし、わからなかったんです。里奈さんの愛情の深さも。私に対する優しいまなざしも、すべて。私だけだと、決めつけてた。幸華を守ることができるのは私だけだと。でも、違った。里奈さんも同じように幸華を守りたいという意思があった。それをさっき知ることができて、うれしかった。」
「いや、別に…」
里奈さんがそう言おうとしたとき
「次は日赤病院前、日赤病院前です。」
というアナウンスが入った。
そして、私たちは病院に入り、手続きをして、幸華の病室へ。
そこには、見るも無惨な幸華の姿があった。ほおはやせこけ、血色悪く、目もうつろだ。
「あ、つーちゃん…。」
一瞬びっくりした。だって、幸華は失声症だったはず。
しかし、その声には、全く張りがなく、ろれつが回っていない。
「大丈夫?」
という私の声が凜と響くくらい、心寂しい空気になっていた。
幸華が軽く咳き込む。その咳の中には、血が含まれていた。
あまりに苦しそうで止みそうに無い咳なので、背中をさすってあげた。
「ごめんね、心配かけちゃって。」
といって、私を振り返ってくる瞳には涙が潤んでいた。
「そんなこと…。」
いつもの幸華ならここで冷やかすのだが、今回は違う。咳が激しくなって、しまいには、ふとんに突っ伏してしまった。反射でひっくり返すが、寝ているようだ。
わたしは、揺り動かすが反応が無い。里奈さんが急いで心拍数をはかる。
しかし、心拍数は0だった。しかし、生きてはいるとか。心停止という症状らしい。
すぐに、里奈さんが幸華を担架に乗せて手術室に連れて行く。
私も、手術室に向かう。
私は、手術室の前のベンチで
「いやだよ、死んじゃいやだよ、幸華っ…」
といって、泣く私を里奈さんはそっと抱き寄せてくれた。
私の一日は、終わった。