表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カモメは遥か水平線を見る  作者: オピオイド
6/22

燕は空を目指し森の中を飛ぶ

とまあ、回想なんだが後悔なんだか解らない時を私は走りながら繰り返している。

原因は言わずもがな、私の教師役である『先生』だ。

私は今、森林公園の中を走り回らされている。

一ヶ月前のあの話の後彼は言った『朝早く、森林公園の入り口に竹刀を持って来なさい』と。

最初は何だか解らなかったが、どうやら『太刀』を振るう為の何かを教えてくれるんだと私は考えた。

しかし、現実はぜんぜん違う。

先生曰く、実戦において一番必要なのは体力、次に必要なのは脚力、最後に経験らしい。

それを全部ひっくるめて何とかできる修行法が、今の状態である。

修行法は簡単、この森の中で多々逃げ続けるだけだ。


「ハアッ、ただ逃げ続けるハアッ…ってのもこんなにも辛いなんてフウッ」


しかし追っている人間と追い方が問題だった。

チラと後ろを見れば、竹刀片手にただ『歩いている』様に見えるのに、全速力で走る私に等間隔でついて来る先生がいた。

普通に考えればあり得ない。

いくら疲れた子供の足と言えども、全速力で走っているのを悠然に歩いて追いつけるわけがないのだ。

修行の当初は混乱したし、超常現象ばりの光景に思いっきり引いた。

さらに問題なのが、私の背中にビリビリと臓腑が凍りつく程の言い表せない程の気配。

一ヶ月前にはじめて知った『殺気』と言う奴だった。

修行の内容としては殺気によって決して私を歩かせず、そして…。


「っっっ!!!!」


膨れ上がる殺気、それを感知した私は能力を使い後ろを見ずに背後で何があったか確認する。

刹那よりも早く起動した私の能力は、視界をマーブル模様に変えた。

世界の全てが虹色に輝く世界の中、背後に迫る白く波立つ一本の線を感知する。


(上段からの片手袈裟!!)


軌道と速さにマズイと思うよりも早く、私の私の足は斜面を蹴り転がり落ちるようにして線を避けた。

次の瞬間、その線に当たった木の幹がバアンと爆ぜた。

その光景すらも振り向かなくても解った私は、顔を引きつらせながら急いで立ち上がる。


「避け方が悪い、緊急以外は決して転がるな。寝て戦う剣士は何処にもいない」


先生の注意に息があがっていて返事も出来ない、だから私が今行える返答ただ一つ。

最近ようやく許された反撃。

最初に習った木刀の握り方で握り、剣先を下に向けて跳ぶ。

近くの樹に足を掛け、タイミングよく蹴り木々の間を跳び回る。

先月まで、私はこんな事はできなかった。

こんな事が出来る様になった理由は、励起法と言う技術だった。

能力者の中でも比較的『識者』と呼ばれる能力者が習得しやすい身体強化法。

実際この強化法を使って身体を動かしたら、かなり驚いた。

最低レベルの深度で走れば9秒台、跳べば10メートル、三時間走り続けても疲れない。

ハッキリ言って脅威の技術。

しかしながら、この技術には弱点がある。

励起法を使っている間は、肉体的に衰えもないが成長もないのだ。

例えば励起法を使う私の身体の数値を10とすると、励起法の深度2であれば10の2乗で100となる。

だが身体能力の成長は、肉体の損傷からの回復から成り立つものである。

励起法を使っていない状態での損傷が1ならば、その反動で11まであがると言う事と前提にする。

すると問題は励起法を行った肉体は損傷しにくい上に、反動で101まで上がった肉体強化を戻すと10.04…となり成長がほとんど無いのだ。

まとめると修行の役に立たないと言う事だ。

だからこそ私は、修行中は励起法を極力使わないようにしている。

だがしかし、こんな木々の間を猿顔負けの飛び移り方をする時は使っている。


「コオオォォォォ」


先生はフードをかぶり、棒立ちに立っている。

明らかな隙なのに、打ち込むことが出来ない。

どんな方法で、今持ちうる最高の打ち込みをしたとしても次の瞬間には、逆に打ち据えられ反撃される光景しか思いつかない。

先生はただ追い回すだけではなく高い頻度で一撃を入れてくる、しかも強烈な一撃を振り向き構える暇も与えずにだ。

だから修行の始めの頃は一撃で終わっていた(寸止めしてくれていた)が、能力による危機察知と慣れによる回避行動が身について来てからは気絶するぐらいに打ち込んで来る。

はっきり言って、恐ろしい。

しかしながら恐怖に負けて、ここで臆していても意味が無い。

私の目的は復讐、家族を奪ったあの蛇人間。

目的を達する為に先生に師事してもらい、私はこの剣をとった。

だから今はこの木刀を無心に振るう。


「イヤヤアアァァァァァ!!」


確実に当てるためのセオリーのような背後からの攻撃に、先生が気付いていないはずが無い。

だけど、それだからこそ、やるしかないのだ。

木刀を両手で持ち、全体重と腕を振りを使い木刀を振り下ろす。

だが、ザンと言う音と共に木刀は枯葉に覆われた大地をえぐる。


「甘い」


スパーンと言う小気味のいい音と共に、後頭部から中へと痛みが抜けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ