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カモメは遥か水平線を見る  作者: オピオイド
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落ちた雀は空を飛ぶ為に翼を広げる

あの時初めて出会った場所で、私はベンチに座って緑の間から見える空を見ていた。

切っ先を突きつけられ、興味をなくしたあの人の背中に声をかけた私は、急いで近寄り白銀のレインコートを涙目でつかんだ。

暫く鍛えてくれていた間中、感情が抜けたような表情しかしていなかったあの人が、やたら慌てていたのは今更ながら笑える。

そう、本当に今更。

あの時、復讐の事だけで頭が一杯になっていた私にとっては、何かしら感じ取ってあの人に縋り付いたのだろうと思うが…もう一寸違う出会いは無かったものかと今思えば恥ずかしい。

しかし、そのお陰で今の自分はここにいる。

周囲に誰もいないことを確認して、歩法『雷』を使い公園の端の若木の場所へと移動する。

指を剣指に構え若木に当てる、励起法は使わない使ったら意味がない。


「『心は水鏡の如く、動きは雷の如く、身体の流れは巻く風の如く』」


心は静かに集中、体重を落とし足首・膝・股関節・背中から腕へと力を巻く風の如く、速さは雷の如く。

若木に添えた手が幹を手品のように抜ける。

正確には幹を擦る様に指を振り抜いただけだ、私の出せる最高速度で。

なんて事のない動作に見えるが、その結果は劇的。

しなやかなで折れにくい筈の若木の幹が、音もなく倒れる。


「霧島神道流『雷刃』」


落ちた若木の幹の断面を見ると、綺麗な切り口が見えている。

ようやくこの域まで達した、あの時あの人に誓った言葉がようやく実現しそうだ。





石上神社の公園はとても広大だ、高見原の中央にある巨大な中洲の南にある岩山、その上にある石上神社を中心に広がる広大な公園だ。

公園は大まかに分けて三つあり、私がよく海を見ていた崖側の公園と神社の境内がある場所、そして…。


「ハッハッハッハッハッハッハッ…」


アスレチックや曲がりくねった散歩道がある森林公園部、そう私が今死ぬ物狂いで走っている場所だ。


「ハッハッハッハッハッハッハッッッッ」


日が昇る前、朝四時頃からずっと走っている。

木の葉が積もる道なき道を、鋼鉄の芯が入っている木刀(重さが真剣と同じように調節されている)を持って走る、走る、走る。

柔らかい地面が足を取り不安定な斜面が足に負担をかけ、一時間ぶっ通しで走り続けて肺は痛くて足はもう限界。

しかし足を止める事は出来ない。

ザッザッザッと落ち葉を踏みしめた単調な足音が、ピッタリ私の後ろを着いてきている。

背後にあるのは絶対的な死をまとったプレッシャー、心は足を止めたくなるが本能が無意識に逃げるというのでずっと走りっぱなしである。

何でこんな事をしているのかと言えば、話は一ヶ月ほど前の公園の出会いまで遡る。




「で、私に何を求める? これを欲しがるなんて尋常じゃない理由みたいだが?」


そう言いながら彼は、トンと腰に佩く太刀の柄を叩く。

日本人ならば誰でも知っている凶器、しかしながら私ははじめて見る。

思っていたよりも怖く美しい。

さっき見た白刃も鈍色にぬらりと輝き、吸い込まれそうなほどの美しさを持っていた。

そんな風に刀の見ていたのが解ったのか、彼は溜息交じりにもう一度聞いてきた。


「それで何故、私を呼び止めた? 君とは縁もゆかりもない私を」

「えっと…直感…かな?」


余りにも『ふざけた』返答だと私でも思う。

その証拠に目の前の彼は、どうした物か眉間(脱いだフードの下から出た顔は若く鋭い目をした美丈夫だった)に皺を寄せていた。

だけど、その返答はまぎれもなく私の本心だ。

あの時、彼を見て刀を見てフラフラと近づいた。

邪な心もあったが、何か霊感じみた何かが介在していたのは間違いない。

私はその感覚に従った事を、彼にそのまま話したのだ。

しかし意外な事に彼は『そうか…』とその事実を受け止め、その上で私に聞いてきた。


「君は、何か人と違った事は出来ないかい?」


心臓が止まるかと思った。

誰も知らないはずの私の能力、誰にも話した事もないのに目の前の彼は見破った。


「やはりか…君は能力者か」

「能力…者?」

「そう能力者だ。この世界において現存する神の系譜」


大きな話が出た、普通の人間ならば妄言だと一笑にふすだろうが目の前の彼にはそうと思えない何かがあった。


「神ですか」

「正確にはこの国の神、八百万の神だ。西洋の神等とは違って日本の神々は物や自然現象を司る神が多い。火の神たる火之迦具土神ホノカグツチや嵐の神たる須佐之男命スサノオノミコト、知恵の神たる八意思兼ヤゴコロオモイカネが解り易いだろう」

「司る…」

「そうだ、もっと解りやすく言えば。火の神ならば火を支配し操り、水の神ならば水を支配し水を操る」


そこまで言われて私は気づいた、それは私のあり方に良く似ている。

私の特別な力は、『音』を感知し人の話『声』を察知し、人の挙動の始まりを知らせる身動ぎの『微音』ですら映像として見ることが出来る。

この力は恐らく…。


「気付いたな? そうだ、そんな力を持つもの達を神の系譜、能力者と言う事だ…しかし、参ったな…」


そこまで話した後、彼は困ったと眉根を寄せた。

何か後始末に困る物を拾ったと、表情が語っていた。


「何か問題?」

「君が私を見つけた理由だ、能力者は能力者を感知できる。それがどんな事か解るか? 今から君は能力者と接触しやすくなるという事だ。これはとても危険な事なのだが…うーん」


そこまで言うと彼は、またしても眉間に皺を寄せながら悩んでいた。


「あの…何か問題でもあるんですか? その…能力者って事に」

「君は知らないだろうが、能力者の世界は色々と危険が付きまとう。まあ色々あるんだが、そんな事より…君は何のためにコレを持とうとした?」


再び目の前に出される太刀、存在感とその向こうに見える彼の瞳に私は今までの事を語る。

親が死んだ事、犯人を見た事それが人ではなかった事を話し、復讐を仇を討つ事までを全部話した。

そこまで聞くと、彼は今までとは違い少し悩むと『いいだろう』と呟くように言ってきた。


「能力者たるモノの何たるかを君に刻むように教えてやろう」






次回に話は続きます

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