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カモメは遥か水平線を見る  作者: オピオイド
22/22

悲しみの先に

振り返ると、上半身と下半身に両断された父さんが横たわっていた。

蛇の頭を上にして手を動かし、陸に揚がった魚の様に口をパクパクと動かしていた。


「父さん………」


私の意志で私が手をかけて、父さんを斬った。

あんな姿になって、母さんのみならず本能のまま人を襲い食べてしまう。

そんな父さんを私は見たくないし、止めたいから斬った。

そう私の意志で斬った、だから悲しい筈がないし泣く権利は私にはない。


「………」


耐えていた私に能力を介して何かが聞こえた。


「……っっ!!」


それはあの時、母さんの最後の声と同じ、通常では聞こえない掠れた小さな声。

私は励起法も忘れて、父さんに駆け寄った。

座り込み鱗で包まれた手を握る。

見れば父さんの目は、今さっきと違い理性の戻った目をしていた。


「父さん!!」


語りかけると、声にならない小さな声で私に何かを言っていた。

私は能力で声に集中させる。


(天子……大きくなった、大人に……綺麗になった)

「父さん、喋らないで」

(…良いんだ、それより聞いて……くれ。こんな身体に……なって、母さんを手にかけ…私は……悪夢に囚われているようだった)

「父さん、私っ私」

(泣かなくて……も良いんだよ。君のお陰で、ようやく楽になれる。ありがとう、これでやっと母さんに……)

「父さんっ!!」


握っていた父さんの手から力が抜けていく、命がスルリと抜け落ちるよう。


「ウウッ、ウアアアッ」


変わり果てた父の遺骸を抱いて、私は堪らず………泣いた。






「クソッ半年程度しか修業してない奴が、大蛇を倒すとは計算違いだっ」


男は銃口を天子の頭に狙いをつける。


「偶然かもしれないが、これだけの逸材は将来を考えて摘ませて貰うっ!!」


引き金を引こうとした瞬間、銀の閃光が走った。

男の拳銃を持っていた手が、黒いブレスレットごと手首からボトリと落ちる。


「ぐっああぁぁ!?」


男の纏っていた黒のレインコートが霧散し、黒のブレスレットがカランと音を立てて転がる。

それに気付く前に男は励起法で身体を強化すると、崖際まで大きく跳び退き間合いを開ける。

切断された腕を押さえながら閃光の主に男が目をやると、そこには白銀のレインコートを着込んだ男がブレスレットを拾っていた。


「白銀のレインコート!? 霧島の鳴雷衆!!」

「そう言う貴様は黒雷衆だな?」


雷神たる霧島の一族、彼らの一族は刀と異常な身体能力で世界最高峰に上り詰めた最強の武闘派集団だ。

その中には『大雷衆』『火雷衆』『黒雷衆』『折雷衆』『若雷衆』『土雷衆』『鳴雷衆』『伏雷衆』と八つの組があり、それぞれが得意分野の戦いに特化した化け物の集団である。

そして黒一色で占められたレインコートは実の所、交渉や潜入に特化した『黒雷衆』である。

そして白銀一色で占めているのは、戦場の第一線で戦い続ける実働の『鳴雷衆』である。


「道理で回りくどい筈だ」

「鳴雷みたいに考えるより先に身体が動くよりはましさ、こんな風にな」


男は切断されて何もなくなった右手を掲げ、皮肉る。

二人は睨み合っていた。

葵は相手が動いた瞬間に切り捨てるつもりで、男は話をしながら葵の隙をついて逃げ出すために。

ジリッジリッと二人は足首を使い、移動していた。


「逃げられると思うか?」

「逃げるのさ、こうやってな?」


男が励起法を使い自殺防止の柵を飛び越え、葵がそれを追う。

その時葵の目の前に二つの影が現れ、行く手を遮った。


「フェンリルか?」

「くくくっ、そいつらはフランス生まれだからルー・ガルーだ。そいつらはそんなの気にしないだろうがな? まあ、俺の能力『テイマー』の飼い犬だがなぁ」


空から飛来する影が男の身体を掴む。

それは烏の頭、背中にある大きな羽根を広げ男の身体を空へと持ち上げていた。


「貴様っ」


左右から掴み掛かろうとするルー・ガルーを、葵は一刀で切り伏せると後を追うべく柵の上に立ち空を見るが、姿形もなくなっていた。


「珍しいな、お前が取り逃がすなんて」

「本当に珍しいわね」


海を鋭い目で睨み据える葵の背中に『二人分』の声がかかる。


「紫門と、久しぶりだな思惟」


振り返るとそこには、濃紺の作務衣を着た背の低い女性がいた。

この女性の名は『時枝 思惟』、裏の世界では『インビンジブル』と呼ばれる姿を見せずに人を殺す殺し屋で有名だった人物。


「お久しぶりね。しかし珍しいわね、追わないなんて。貴方なら追い付けるんじゃないの?」

「追い付けはするだろうが、同じ手で逃げられる可能性もある。海に潜られて魚人系の暴走体ならば、確実に逃げられる。そんな事より………」


先程と同じ様に囮や足止めをされては逃げられる、あげく魚人系の暴走体がいた場合は海を使って逃げられる。

さしもの雷神も海に逃げられたら追えない。

そんな彼は踵を返し柵から飛び降りると、ユックリと天子の側に近付く。


「天子………」

「先生、私、父さんを………」


涙が溢れた瞳で天子は葵を見上げた。

その表情は哀しみや苦しみ、怒りや絶望、全てが混ざったものだった。

それは仕方がない、自らの手で化け物になったとはいえ自分の父親を切り捨てたのだ。


「私、どうすれば………」


苦しまない理由がない。

天子の目は、完全に光を失っていた。

葵はしゃがみ込みフードをとると、天子と目を合わせる。


「天子。私の言う事が、今理解できないかもしれないが、聞いてくれ。君は悪くはない」

「父さんを斬ったのに?」

「ああ、悪くない。最後の一閃。見ていたが、あれは彼は自分から斬られた」

「えっ………何で?」


天子の目に光が灯る。


「あまり知られていないのだが、口伝では暴走体となっても人の心を失わずにいた前例がある」

「でもそれじゃあっ」


なおさら自分が斬る必要が無かった。

そう続ける前に葵は、天子の口を押さえる。


「それでも、最後は全員死んだ。何故だか解るか? 徐々に人で在る事を忘れていったんだ。彼らは人の心を持った暴走体は、人であるために死を望み自ら命を断ったり親しい者と戦い死んだ者もいたらしい」

「父さんと一緒………」


実の所『擬神薬』による犠牲者はかなり多く、その時代背景は古くからある。

日本における『ヤマタノオロチ』や、獣系の『妖怪』を考えてみればかなり古いと解るだろうか?

有名なエピソードと言えば菅原道真公の話ではあるが、此処では割愛させてもらう。

だが、それだけ古くから暴走体はいるのだ、旧家の家系である葵が知っていてもおかしくはない。

そしてその事実から天子は、父の最期の言葉を知る。


「父さん、やっと楽になるって、ありがとうって。先生、私はっ……私はっ!!」

「君は君の父を救った、君には罪はない」

「っっっ!!!!」


そこで天子は限界だった、声にならない泣き声で葵に縋り付き泣き続けた。





泣き過ぎた。

先生に背負われながら、海を臨む山道を行く。

空は何処までも碧く、抜けるようだった。

カモメが空を舞っている、遥か水平線を見て啼いている。

きっと、あそこには獲物が居るのだろう、魚の大群かな?


「先生」

「…何だ?」

「私、続けます。あいつ私の父さんみたいな奴らを何匹も操っていたんでしょ?」

「ああ」

「救い続けます、父さん見たいな存在はみんな苦しんでいると思うから」

「そうか………」

「頑張ります」

「ああ」


そして私は日常を破るものを許しはしない。

例外もなく、この剣にかけて。


「先生?」

「どうした?」

「挫けそうになったらまた泣かせてください」

「ああ、その時にな」






コレで最終話となります。

この話の後は変わる世界へと続きますので、そちらは試験期間が過ぎてからになります。

学生生活上仕方がないので平にご容赦を。

息抜きに、この話を改訂や構成を変えるかもしれませんが、その時は活動報告にて行います。

それでは皆様、暑い夏を乗り越えれますよう!!

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