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カモメは遥か水平線を見る  作者: オピオイド
20/22

決意のカモメは

岩長は細長い木箱を持って走っていた。

普通なら自分の領域である岩山の中であれば、能力で自分自身は何処でも現れるし今持っている木箱は浮かせて簡単に持っていけただろう。

しかし、それは無理だった。

問題は暴走体が常に発している『神域結界』。

元々『神域結界』とは、能力者が能力を使うために制御する支配領域を言う。

この神域結界は前述していた通り能力者の持つ支配領域だが、この支配領域には距離や強度がある。

例えば『識者』系統の神域結界は、身体を覆うだけだが強度や処理能力が高い。

これに対し『導士』系統の神域結界は、個人差もあるが約10メートル強度はそこそこで処理能力は少し甘くなる。

『煌種』と言う生物の説明は覚えているだろうか?

能力者がとある条件で死んだ時に転生するのが、煌種である。

その条件の一つが『神域結界』を維持した状態で死ぬ。

説明は割愛させてもらうが、『煌種』の岩長が能力を使うにも神域結界が必要なのである。

そして暴走体も能力者の成れの果て。

そこに岩長が能力を使えない訳がある。

神域結界は神域結界でしか破れない、儀式結界では弱い干渉しか出来ない。

その絶対条件が岩長を悩ませ、そして危機に落とされていた。

山の所々に仕掛けられた儀式による結界と、配置された暴走体の強力な神域結界により岩長自身を権限させる神域結界が削られ、揚句には暴走体に囲まれていた。


「何たる事ぞ、此処まで来て………犬に蜥蜴、烏頭の烏天狗か、神代でも此処まででらなんだぞ」


左右に狼男、前には蜥蜴男後ろは烏頭。

遥か昔、神がまだ居た時代では十数年に一匹か二匹位しかでないものだった。

しかし今、岩長を囲う様に四匹。


「この地に、いや世界に何が起きておる?」


元々暴走体と言うだけあり、普通はこの様に統率が取れるはずがない。

にもかかわらず暴走体は統率をとり、攻撃を仕掛けている。

恐らく暴走体を操る能力者がいる、とそこまで考えたが今はそれどころではないと意識を切り替えて、岩長はこの場を切り抜ける術を考える。

一・二匹程度ならば何とかなるが、如何せんその倍。

この場を囲むのが狼と烏と言うのが更にマズイ、機動力の高いのが三匹で逃げ切れない。

時間をかければ何とかなるかもしれないが、不確定要素や急がなければならない理由がある。

と、そこまで考えていた時、目の前の蜥蜴男が突然前のめりに倒れた。

倒れた蜥蜴男の首筋を見れば、そこには黒光りする和釘が深々と突き刺さっていた。

突然倒れた仲間に驚いたのか、他の三匹も行動に移そうとしたが唐突にコケる。

見れば他の三匹も足や背中に和釘を生やして動けなくなっている。

何が起こっているかと呆然とする暇もなく、岩長に声がかかる。


「………急いでるんでしょう? 早く行った方がいいわよ」

「だれじゃ!?」

「ごめんなさい、私の戦い方としては姿を見せないのが普通なの。それより暴走体どもに私の呪釘はあまり効きづらいわ、一・二分で動ける様になるから本当に急いだ方がいいわ」


岩長は姿を見せない声の主に色々と聞きたい事があったが、すべて飲み込んで小さな声で礼を言うと再び走りはじめた。

彼女の姿が見えなくなった数秒後、暴走体がユックリと立ち上がり岩長を追おうとした時、声が宣言する。


「私の護天八卦『奇門遁甲陣』、簡単に抜けれるとは思わないでね?」





ガスンガスンと重い音とミシミシという木刀が軋む音。

私の黒塗りの木刀は、色んな所が剥げているだけではなく所々に罅が入り始めていた。

先生に聞いた励起法の特徴は二つ、身体全体を乗数強化する事ともう一つ、接触している物も強化が出来る事。

物質強化は身体強化ほどではないが、戦いという面において持久戦では重宝する。

今の私で言えば着ている服と靴、そして持っている唯一の武器の黒塗りの木刀。

しかし、今現在その木刀が限界を迎えようとしていた。

原因は、目の前の大蛇になった父さんが振るう拳だ。


「ガアァァァ!!」

「カアアァァァァ!!」


暴走体の拳は、異常な重さを持っていた。

最初に喰らった一撃、数メートル吹き飛ばしただけではなく金網のフェンスが壊れそうなくらいの一撃。

励起法がかかっていたのにもかかわらず、軽い交通事故にあったの様なあの一撃はかなり危険。

だからこそ私は何度も繰り出してくる暴走体の一撃一撃を、木刀で逸らし打ち落とし受け止めていた。

鉄芯が入っている木刀を励起法で強化しているのに、後一合二合受け止めたら壊れてしまう状況に私は少し…ほんの少しだけ焦っていた。


「くっくっく、諦めなよ君。最初あんなに死にたがってたじゃないか、過去死ぬのも今死ぬのも明日死ぬのも変わらないよ? そんな今にも壊れそうな木刀なんか捨ててさ?」

「うるさい!! 後ろに隠れて守られてるだけの外野は黙れ!!」


ぬくぬくと安全な場所に居て笑っている奴に怒鳴りながら私は、この状況を何とかできる方法を一つだけ思いついていた。

それは『雷刃』だ。

理論上は励起法を使い身体能力を最大限まで引き上げて、全力で打ち込んで衝撃が伝わった瞬間なぞる様に引き抜くと言うミクロン単位での衝撃波達磨落とし。

はっきり言って無茶苦茶な技だ。

能力者の規格外の処理能力と励起法、それに見合う肉体操作技術と言う常人には到底無理な条件がいくつもある技。

それに私は、未だそれに一度も成功していない。

しかし、それしか打開策がないのも確かだ。

後何合かしか持たないであろう木刀を握り締め、私はやるしかないと剣先を後ろにして腰だめに構える。


「行くよ父さん、今楽にするから」

「天子…天子…天子ェェェェッ!!」


私の名前を呼びながら襲い掛かってくる父さん。

手を振り上げ掴みかかって来る父さんの手を、木刀の鎬で逸らし交差する勢いをそのまま、踏み込んだ右足を始点に左足を回しながら後ろへと回り込む。

今だ、と踏み込み『雷刃』を打ち込もうとした瞬間。


「やらせると思うか?」


目の前に集中していた為に男の事を忘れていた、能力で背後の男が拳銃の引き金を引いた事が解った。


「くっ」


慌てて跳び退る。

しかし、私はここでミスをする。

鈍い音、見れば木刀に拳銃の弾がめり込んでいる。

もう一歩、歩法で大きく間合いを取るが致命的過ぎるミスが痛すぎる。

後一度、木刀を振るえるかどうか怪しい。

だけどやるしかない、私の後ろでニヤニヤと笑っている男の顔を凍りつかしてやる。

そして、もう一度踏み出そうとした時だった。


「天子ー!!」


父さんの向こう側、森の中から岩長ちゃんが現れた。

木箱を抱えて、あの時買ってもらった服を所々ほつれさせながら。


「岩長ちゃん!!」

「お主の師からじゃ!! 受けとれい!!」


振りかぶって投げられる木箱、それに反応する父さん。

何かが入っているであろう木箱を破壊するつもりだろう、父さんは口を大きく開き飛び上がった。


「くっ」


私も跳び受け取ろうとするが、父さんのほうが早く木箱を咥えた。

まずい、木箱が破壊されると思った。


「ぐぎゃあああぁぁぁぁ!!」


木箱が砕けるその瞬間、父さんは絶叫と共に口を離した。

砕け散る木箱から零れる落ちる物、細長く重量があるそれは。


「日本刀…」

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