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カモメは遥か水平線を見る  作者: オピオイド
12/22

副話 雷神

今回残虐表現があります。

苦手な方は戻って下さい。

タバコの煙が空気を真っ白にし、ジャラジャラジャラと牌を丹念に混ぜる四対の手。

手が繋がる胴体の上には、公共施設に行くと必ず避けられる様な厳つい顔が乗っている。

紫煙が部屋を燻らし室内の明かりを淡く遮る中、麻雀牌を慎重に積んでいく厳つい顔の面々は、自分の持つ牌を確認しながら並べていく。


「おう、隣はどうしたんだ?」


牌を廻しながら、四角い顔が蟷螂の様な顔に聞く。


「へえ、何かガキが来てました。」


牌が卓に当たる度に手垢に塗れた牌が己の質の良さを主張するかの如く、室内に鳴り響く。


「はあ? ガキ? なんでそんなのが来たんだ? それポンだ」

「俺もポンです。さあ? 身体でも売り込みにきたんじゃないんですか?」


髪を金髪に染めた男が卓の隅に牌を纏めながら下卑た笑いで答える。



「馬鹿な事言ってんじゃねえ!!」


髭をたくわえ貫禄のある厳つい顔の男が、怯えを見せた声で男達に怒鳴る。


「組長?」


組長の様子がただ事ではない事に気付き牌を廻す手が止まる組員。


「何か、あったんですかい?」

「なっ何でもない」


何かをひた隠す様に牌を切る組長に、四角い顔は溜め息を吐く。


「何かあるようであれば、何でも言ってくだせえ。オジキとは盃で結ばれたご縁がございます。」


組員は四角い顔を更に四角くするように、顔を引き締め言う。

実の所、組長の挙動不審は今に始まった事ではなかった。

武道派の面々とは対照的に組長は昔から気が小さく何かある度にビクビクする程の人間で、他人を蹴落とす事も出来ず面倒見の良い優しい人間である。

ここには強面の顔と腕っ節の強さのみで入っており、周りの人間もどうして組長になれたのか不思議なくらいだ。

四角い顔は、そんな彼が好きで付いて来て10年経つが、此処まで挙動不審な組長を見るのは初めてだった。

だから、少しでも安心させる様に昔見た極道映画のワンシーンさながら、少し芝居っ気を出しながら言ったのだが余り効果がないようだった。


「おっおう」


そんな時でも組長は内心、今にでも逃げ出したかった。

心の中では一ヶ月前の総会で、言われた事がグルグルと回っていた。


『うちの系列の組を片っ端から潰してまわっている奴が高見原に入った』


それだけの言葉がグルグルと。

事は四年程前に遡る。

日本屈指の暴力団『王仁組』系の東京都最大の支部が潰された事から始まる。

系列の組は最初に敵対組織を疑い、その報復をするべく組を潰した襲撃者を調べた。

だが、調べれば調べるほど、ありえない事が解った。

警察の鑑識と捜査の結果だけを言うとこうだ。

死傷者16名、重傷者63名、生き残った人間に事情を聞くが、聞けば怯え錯乱状態になる程ほとんどの人間は壊されていた。

これは、どういう事か?何とか回復した人間に事情を聞くと、地獄の様な有様だった事が解る。

襲撃者は一人、白いレインコートを来た長身の男だったと言う。

いつの間にかに事務所に入り込んでおり、気付いた時にはワイヤーで身体を柱に括り付けられ拘束されていた、それが悪夢の始まりだったらしい。


始まりはランダム、適当な人間に尋問する。それは一方的な話。

質問に答えないと先ずは手足四本の内二本を選ばせる、そして選んだ骨を端から砕かれる。


カウントすることキッチリ五秒。


グシャリと潰れる音。

再び質問、出来なければ段々と身体に近付く様に砕かれる。

カウント。

砕く。

カウント。

砕く。


砕く場所が無くなると最初に戻る、次は端から一寸(三センチ)づつに刻んで行く。

ご丁寧に、簡単に死なない様に、傷口を火で焼いて血止めをしながら。


カウント。

刻む。

カウント。

刻む。

カウント。

刻む。

そして、刻む場所がなくなり次第、次の人間に交代。


狂気を具現したかの様な一晩だったと。

両足を無くした組長は警察病院で言っていたと言う。



その話をしっていた組長は青ざめた。

凶行とも言えるその事件は最初だけだったのだが、組長にとっては関係がなかった。

もし同じ事がこの組であった時、相手の手足を砕いて刻む様な狂人にとっては、いつ気分が変わり刻まれるか解らない。

だからこそ、早く逃げたかった。

だが、組長という立場とこんなヤクザに向いていない自分でも、慕ってついてきている舎弟を思うと逃げられなかった。

まさに八方塞がり。

その時だった、右にいた金髪の牌を切る手がピタリと止まる。


「…?」


顔を見ると呆けている。


湿った生暖かい風がクーラーの利いた部屋を舐めるように漂った。

組長は寒気立つ。

長年、荒事で培わられた経験が警報をガンガン鳴らしていた。


「組長?どうしたんですか?」


目の前の四角い顔が心配そうに言ってくる。

見てはいけない。

組長は心で叫ぶ。

そこに居るのは人外だ、人に敵う、否、それすらも超越している。見た瞬間、それが具現しそうで見れない。


「あ…」


ほうけていた金髪の時が動き出す。

組長は喋るなと言おうとして…それが手遅れと知る。


「あんた、誰だ?」


同時に見ると、そこには幽鬼の如く立つ、白いレインコートが居た。

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