表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カモメは遥か水平線を見る  作者: オピオイド
10/22

狩をする燕

初夏を通り過ぎ、太陽の光りが肌に刺さる季節。

この高見原にとっては蒸し暑い日々の始まる。

知っての通り、この町は森林都市と呼ばれる程の森と林を有しているので、その所為かこの町は激しく蒸し暑い。

暑さと着ている服(修行兼戦闘用の黒ジャージと前回もらった装備一式と、その装備を隠すため上から灰色のスウェットジェケッとを羽織っている)の所為で頭が湯立ちそう…目の前を歩くいてる白いレインコートを着ているにも拘わらず汗一つかかないの先生がいなければダラけてしまうはずだ。

前を歩く長身の男性、ニメートル近くある彼と私との身長差は目測で50cm近く。

こうやって歩くと、端からは親子に見えるのかも知れない。

幼い頃、早起きした休みの日。

今は居ない父の背中を見て散歩していた昔を思いだし、目の前の彼の背中とだぶらせる。

でも、どっちかと言えば…今は親鳥に付いて廻るヒヨコかもしれない。

そんな事を思いながら、先生が立ち止まる。


「ここだ」


ドッドッドッと激しく鳴る心臓。

大きな大会のスタートダッシュ、発表会の直前などの緊張で起こる震えも出ている。

普通は健全な理由からの緊張だろうが、同世代の緊張感と違って私の場合は血の臭いがする。

目の前には『森内組』と書かれた看板が掛かったビルが一つ。

私は野球帽を被るとコクリと頷き、意を決して中へと入る。

少し薄暗いコンクリートむき出しの階段を上がる、一階はガレージなので目的地は二階の事務所。

ひんやりとした風が頬をなでるが、どうでもいい。

今から私は…。




扉を開くと一番奥には重厚な机が鎮座しており、その手前には革張りのソファー。

ガラスで出来た灰皿が乗ったテーブル、周りの壁には本棚と額縁に掛かった色々な写真や代紋。

いわゆる一つの応接間。

ソファーには花札片手にタバコをすう柄の悪い男達、私の進入に気付いて一斉に近づいてくる。


「なんだぁぁ?」

「犯されてぇのかぁ嬢ちゃんよぉ?」


下品な笑い声をバックに、ありきたりな台詞とドスのきいた声が私を威嚇する。


「えーっと」

「ってか身体でも売りに来たんかぁ?」

「おいおい、トウジの奴さかってねえか?」

「こんな、ちっこい嬢ちゃんにさかるって事は、手前のロリコンって噂は本当かよ!?」


身の危険をヒシヒシと感じるヤクザの事務所の真ん中で、私は時間が来るのをジッと待っ ていた。

合図はもうすぐ、だから・・・我慢だ。


「でも可愛い顔してるぜ~。胸は小さいみたいだがな、バットケースを担いでいるから男の子じゃねぇの?」


目深に被った野球帽の下から覗き込むチンピラが失礼な事を言ってくる…私は女の子 です。

我慢…我慢だ。


「ばっか野郎!! それが良いんじゃねぇか!! 控え目な胸に隠された、あの可憐なエロチシズムがテメェらには解んないのか? ある意味貴重品だぞ!!」


そんなの解るか、と言うか力説するな。

それに私は二次成長中だからもっと大きくなる………はず。

小さい胸に異常な愛情を語っている、一人毛色が違うヤクザに周りが呆れる。

その時、事務所の一番奥から鶴の一声、と言うには些かドスの効き過ぎた声がかかった。


「テメェら、威嚇かコントか解ねぇのはそれ位にしときな。そこのお嬢ちゃんが呆れ返ってるじゃねえか。」


事務所の一番奥、来客用のソファーの奥にある頑丈そうな無骨な机に足を投げ出している、イカにもな中年男性。

何に苛立っているのか、その視線は射殺す程鋭く眉間には深い皺が刻まれている。


「それにしてもだ…お嬢ちゃん。」


机の上に投げ出していた足を降ろし、肩をいからせながらも正中線がぶれさせず歩いてくるヤクザ。

ゆっくりと圧し掛かるようなプレッシャー。

私の周りにいたチンピラ連中が波が退くように分かれ、ヤクザが通る道を作る。

見るとチンピラの顔は少し引き攣っていた。


「そんな物々しい格好で、この武闘派で通っている、うちの組に何の用だい?」


相手を潰さんとプレッシャーが高まる…だけど、先生の叩きつけたきた殺気の方が100倍怖い。

それに私はこれ位では退かないし心は折れない、目指す目標がある。


「貴方達は、ここの近辺で麻薬を売りさばいていると聞きました。」

「ほう、それがどうした?」


『相手に怒りを見せるな。ポーカーフェイスだ。怒りを見せるのは時に隙を見せるのに等しい。』


先生から貰った野球帽を目深に被る。


『相手の目を見て戦うのは下策だ。一流の戦いに於いては相手は目を使ったフェイン トを行う、全体を見て身体の動きや体勢から次の動きを予測するんだ…流れを見ろ、君にはその能力があるだろう?』


意識を何時でも能力を使えるように待機させる。


「私は許す事が出来ません。」


バットケースを開け鉄芯の入った木刀を引き抜く。

それを皮切りに空気が変わる、チンピラ達の目の色が変わる。


「そうか。…テメェがオジキの組の傘下を潰しまくっている奴だな。」

「違います。そんな事は関係ありません。」

「はっそれは、どうだかな? まあいい、ここでテメェを撲ちのめして、その貧相な身体に聞いてやれば良いこった。さて、何人もつかな?」


ヤクザは下品な笑いを浮かべ得物を掴んだ。

呼応するようにチンピラ達も、それぞれ武器を持つ。

身体を開き左半身に構える、柄をヤクザの視線に合わせ剣先を後ろにし隠剣の構えをとる。




…………………緊張が高まる。




その時だった。

事務所の奥の扉から大きな音があがる。

それは私がここに来る前に先生と決めていた合図。

私は戦いの火蓋を斬って落とすべく、木刀を振り下ろした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ