表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カモメは遥か水平線を見る  作者: オピオイド
1/22

小雀は蛇の夢を見る 7月15日改訂

それはとても風の強い日だった。

吹付ける風にガタガタと鳴る窓ガラス、早く流れる雲の合間から漏れる月の光が今でも私の心に強く刻まれている。

その光景を見るたびに、頬を抓るまでもなく私はこれは夢だと理解する。

何度も何度も見た夢だから、もう覚えてしまった心に焼きついた光景は壊れた映写機のように繰り返す。

気付けば布団の中。

当時の私は、風の音が怖くて布団を被っていた。

その頃から私の耳はとても良く聞こえ、小さな音も逃さず聞こえていた所為でとても恐怖を感じていた。



ピチャ



そのお陰かもしれない、布団を被っていてもあの音が聞こえたのを。

粘るような滴る水の音が聞こえ、私は恐怖交じりの好奇心で布団を抜け出した。

襖には私の描いた落書きや、貼り付けたシールの絵柄のファンシーさが夜の闇に映えていてとても不気味だ。

音を立てないように襖を開けて、廊下に出る。



ピチャ



ズルッズルッ



今度は何かを啜る音が聞こえた。

その時私は、お父さんがお酒のつまみに何か食べている音だと思った。

だから私は音が聞こえる台所へ、怒られない様にそっと走る。

今とは違う成長しきってない小さな足で音が立たないように、そっとそっとゆっくりと。



ズルッ



背伸びして台所のドアノブを回し、そっと中に入るとそこは真っ赤。

絵の具をぶちまけたかの様に、緋色が飛び散っている。

床は、テラテラと光る赤い液体で、足の踏み場もない。


「お、母さん?」


テーブルの脚の隙間から見えるのは、仰向けに倒れたお母さん。

何処を見ているか解らない虚ろな瞳と赤い液体にぬれた顔、恐怖や困惑より思いの他青白い顔色が気になった。


「…………………さい」


虚ろな目をしていたはずの青白い顔をしたお母さんと目が合った。

唇を震わせながら、必死で懇願するような顔で私に何かを言っている事に気付く。

身体を痙攣させながら、口から紅い何かを吐きながら。

今更ながら解る、お母さんは言葉にならないのに必死で。


「お母さん!!」


私はお母さんを呼ぶ、そこで…







目を覚ます。

身体は汗でびっしょりだ。

汗にぬれたパジャマを脱ぎ捨て、箪笥から出した真新しい下着と換える。

服を着る前に布団の枕元に置いておいた目覚ましを見ると朝の三時。

何時も五時起きだから、まだ起きる時間には早い。

しかし二度寝使用と思っても、今さっき見た夢で完全に目が覚めてしまった。

私は箪笥を開き、並べたてしまっている服をどかし一番深くにしまっているものを取り出す。

変哲もない薄手の白のスラックスとワイシャツ。

この服は話に聞いた所によると、『儀式』を施したこの服は耐刃、耐弾、耐熱、耐寒、耐衝撃の防御力に優れていると言う。

それに手早く着替えると、私は暮らしている離れの部屋の入り口に移動。

土間に置いている靴箱の奥から黒い編み上げの軍用ブーツを取り出し、履くと玄関の天井におもむろに手を伸ばし掴む。

そこには何もない空間。

普通の人間には、何も見えないし何をやっているか皆目見当が付かないだろう。

しかし、私は知っているし解っている。

身体全体に意識を向け、数年前に習った身体強化技法『励起法』を使い身体を強化し、制御用のブレスレッドと手にエネルギーを意識し引き寄せる。

瞬間、私の周りに闇が集まる。

いや、それは闇と言うには艶がありすぎるので闇には見えない。

『先生』が言うには、それは霧の様な物質をより集めた布で出来た衣らしい。

先生の言葉を借りれば、身体の回りに霧が集まり、衣を形成する。

漆黒のレインコートが私の身体を包んだ。

これで私は『剣士』となる。

街を騒がせる噂の剣士、私の日常を邪魔をする悪を狩る『桜坂の剣士』に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ