Mission
正直成り立っていない会議が終わり、ショウコとツルギは汎用島に戻っていた。
連絡手段はあるのだが、どうせ居る場所は分かっているので一直線にそこへ向かった。
一般人からすれば耐えられない轟音の中、二人はどんどん歩き、建物の奥へと進んでいく。
やがて、周囲から様々な音楽が聞こえてきた。
『I don't wanna give up』
『we're gonn have a party』
『have a really great time』
聞こえてきたのはレイヴ。1980年代後半の英国が発祥と言われている。レイヴといえばバブル世代の血が騒ぐだろう。ショウコが好きなジャンルだ。
その曲が聞こえてきた方向を見れば、そこにミナミとヤシャがいた。ピョンピョン跳ねている。
「み、見切れない!」
「くそっ! コンボ切れた!」
「あ、あれ! こっちじゃない!」
「おま、こっちに近づくな!」
二人で大騒ぎしている。すると曲が終わり、結果が表示された。
ヤシャがドヤ顔をする。ミナミがグーパンチを顔面に放つ。見慣れた光景だ。
ここは汎用島唯一のゲームセンター。だがその広さは尋常ではない上、建物内に今なおゲーム開発をしている会社が入っているため、最新作は勿論、ロケテストも行われる究極の娯楽施設だ。
「結局、帰り着くのはレイヴとハウスよね」
終了したところで声をかける。
「たまにやるとやっぱり楽しいね。ショウコちゃんもどう?」
「いいわね……ツルギ?」
「いいだろう、カワナカタッグの力を見せよう」
手慣れた動作でサイフを出し、カードと100円玉を取り出し、筺体に乗る。
雑巾を踏み、靴の裏を湿らせ、軽くパネルを踏み、感覚をつかむ。
体を傾けながらボタンを操作し、曲を選ぶところで体勢を戻した。
「一曲目は!?」
筺体からの爆音で声が聞こえにくいので叫んで会話する。二人同時プレイ音ゲーマーのサガと言える。
「とりあえずウォーミングアップにShiny World!」
「OK!!」
曲を選び、お互いオプションをつけたところでパネルの上に戻る。
流れてきたのは大自然をほうふつとさせるダンスポップ。BPM25というトップクラスの遅さから始まり、最初の矢印を踏んだ瞬間にBPMが100に上がる。ボスフォルダにしてはある意味平和な曲だ。
スキップや譜面の停止にも躓かず、曲が終わった瞬間、お互いの画面には「FULL COMBO」と表示されていた。
その後、数回プレイしたところで4人そろってゲームセンターを出る。
轟音の中から出て、急に静かになるこの感覚も楽しい。
時間もちょうどよかったので、4人はそばにあるファミリーレストランへと入っていった。
禁煙席に座り、各々が注文したところで、ショウコ以外の三人がドリンクバーに飲み物を取りに行く。ショウコはつまるところ置き引き対策。
割と隅の方の席なので時間がかかる。手を拭いたりして暇を持て余していると、誰かが自分たちの席へと近づいてきた。
巫女服を着、巨大な七支刀を背負う少女。狐耳と尻尾が生えている……ランク3位、佐久奈度ユカだ。
狐とシカバネのキメラと言われている異端の少女は、断りもなくショウコの前に座った。
「探したぞ、蒼凪」
「探したって……なにか忘れ物でもしたっけ?」
「ふん、何も聞いておらんのか。任務の話じゃ」
任務と聞き、緊張の糸が張られる。
「場所はここより南西50km、旧オオサカの辺り。新型のシカバネが発見されたという情報があった。我と蒼凪、オーラヴ、ラチェルンの4人で向かう」
「新型ってことは、屍魂もあるかもしれないってことね」
「うむ、その捜索も兼ねておる。時刻は明日1000。駅集合じゃ」
了解、と伝えるとすぐにユカは去っていった。それとすれ違うように3人が戻ってくる。
「今の、ランク3位の佐久奈度ユカだよな? なにかあったのか?」
「仕事よ」
ヤシャの追及を軽くあしらい、ショウコもドリンクバーへと向かっていった。