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西日本支部。
ヒノクニ最大の湖の中央に立つ中世らしさがある建物。
侵入方法は南に向かって伸びる10kmほどの橋のみ。勿論徒歩で渡れというわけではなく、間を列車が通っている。支部長の要求により約1.5kmごとにトイレが設けられている以外は普通の橋である。
西日本支部に向かう列車の中に、ショウコ達はいた。
資金調達のための依頼を受けるのもあるが、前回の件の後、支部からショウコとツルギに呼び出しがかかった。
西日本支部はおおまかに言うと半径5kmほどの汎用島と中央に立つ支部島の2つの島から成り立っている。汎用島はいわば城下町。飲食店からゲームセンター、銃火器やドがつくほどマイナーなものを取り扱っている店まで多種多様。勿論宿泊施設や養殖用の池など、まず不自由しない。
そして中央の支部島は城。正規の依頼の確認や会議などはここで行われる。
ミナミとヤシャは二人の用事がすむまで汎用島で暇を潰している。
ショウコとツルギは支部島の10階、『ランカー会議室』にいた。
ランカー。それは各支部に存在する優秀な人物。
各支部ごとに50位までランクがあり、西日本支部の場合、1位から10位までは『城』、11位から30位までは『石垣』、31位から50位までは『堀』と区別されている。
堀、とはいってもその実力は常人とは比べ物にならない。西日本支部は特にその傾向が強い。一流の軍人がアサルトライフルやらなんやらをもったところで堀はおろかランカーではない人物にも負けるだろう。
ちなみに白井ミナミは34位。狼牙ヤシャは29位。
そして二人は―――
「ランク1位、アンダー・ゼロの代理人。ランク15位、染樹ヨシノ」
「ランク2位、五百井ヤエイだ」
「ランク3位、佐久奈度ユカじゃ」
「ランク4位、ニルス・オーラヴ」
「ランク5位、デイジー・バビルサよ」
「ランク……6位、無兵……ヒトリ」
「ランク7位、ウェイター」
「ランク8位、蒼凪ショウコです」
「ランク9位、三好ツルギだ」
「ランク10位! 識別番号VIV-4、ラチェルンだよ!」
二人は城。
この会議は城の者のみで行われる会議。
異常事態が発生した際に、原因を一瞬でつぶすために最強の10人を一か所に集める。
そのための会議だった。
「よし。今回集まってもらったのは言うまでもない。西日本支部配属基地No.014に前例にない量のシカバネが確認された。偶然にも蒼凪ショウコと三好ツルギがいたため被害はほぼなかったが、放っておくわけにもいかないだろう……」
今話しているのは西日本支部の支部長、琵琶シャクハチ。白黒の袴を着た35歳ほどの男性である。
彼は別にランカーというわけではない。つまるところ適材適所。彼は戦闘向きではなくデスクワーク向きだったという話だ。
つまり偉い人が話をしているのだが、なにせ西日本支部。特徴が強い人が多いので……
「五百井さん! 今度ストリングソーをよりコンパクトにより長くしたものを作りたいんです!」
「嬢ちゃんの頼みなら断れねぇな! 待ってな! 西日本支部最高の鍛冶職人のわしが作ってやる!」
「ショウコさん……それ、完成したら私に貸してくれないかしら? 傷つけたいのよ……私を」
「まーたデイジーちゃんはそう言ってー! 自分の体は大事に! ねっ!」
「傷を知らないロボットに言われたくないわよ」
「いーだ! ウェイターちゃん! あそぼー!」
「VIP起動。体重を低下させます」
「ウェイターさん、そのVIPを使えば、飛べないペンギンでも……空を飛べるようになるのか?」
「これは偽り。いわば騙ることしかできない粗悪品です。寛大な夢をお持ちなら、正当に叶えて見せてください」
「そうだな、頼ってちゃいけないよな。俺にだってまだ可能性は残ってるんだ……!」
「やかましい連中じゃ……それ! 静まらんか!」
「油揚げをあげるから見逃してくれ、な?」
「好きなだけ談笑するが良い! 我は寛大じゃ!」
「……ハァ」
まともに会議が成立したことがあるのは数えるほどしかない。
西日本支部、最大にして最悪の特徴かも知れなかった。