Go Beyond
人は言う。
「誰が超えるか」
シカバネが迫る。門の間を抜けようとする……が、もちろん不可能。シカバネの体はバターのように切れ、慣性の法則に従いショウコの足元に滑ってきた。
10体ほど消えたところで、シカバネも学習したのか、ストリングソーを飛び越えようとする。勿論その程度は予測通り。門の上の方にも粗めだが鋸を張ってある。飛び越えようが致命傷を負い勝手に死ぬ。
そのあたりがシカバネの身体能力の限界なのだろう。進行が止まった。
「でもどうする? この群れ」
ツルギに尋ねる。フェニックスを構えつつ、口を開いた。
「まあ、諦めてどっかいってくれるのを待とう。スナイパー! 支部に連絡を!」
スナイパーが脇の電話を取り、連絡をする。危険を避けるため物資の配給停止、それと上位のランカーの要請。
「完了しました! 西日本支部配属基地No.014、持久モードに移行します!」
店舗のライトが弱くなる。同時に広範囲用の放送が鳴りだす。
『これより西日本支部配属基地No.014は持久モードに移行。周囲1km圏内の進入を禁じます。代わりとなる基地は、B地区北部はNo.002……』
「三好さん、とりあえず休憩しててください。私は門を見てます」
「じゃあお言葉に甘えて。30分置きぐらいに交代しよう」
ツルギが建物内に戻る。あたりは静かになった。
たまに聞こえるのはシカバネの唸り声と大きめの会話の声。そして髪を揺らす風の音。拮抗状態にあった。
……
30分後。予定通りツルギが戻ってくる。
「交代しましょう。ショウコさんも休憩を」
「ありがとう」
しかしショウコは建物に戻らず地面に座り、その体勢のまま眠ってしまった。
……
結果、ツルギは2時間ほど動かず見張っていた。動きがあったのはそのあと。シカバネが突然散り始めた。前触れもなく、全体が突然。
「スナイパー、スコープで見える範囲から消えたら持久モードを解いてくれ」
スナイパーはうなずき、双眼鏡をのぞき始めた。
結果、持久モードが解かれたのは1時間後だった。
爆弾狂の役目がなかった。