14話「come across」
俺は―――ピュータに来てしまったのではないか。
周りの通行人たちは、突然の行き先の変更に驚いた様子だ。
マルカと同じように、ミディーバに行こうとしていた人もいるだろう。
俺自身もまた、相当に驚いていた。
だがここに留まっていてもしょうがない。
ひとまず、橋を渡り切ってから通りをまっすぐ進んでみる。
大通りのようだし、歩いていればなにか分かることもあるだろう。
道路には車が沢山走っている。
現実世界でよく見ていた光景だ。
だが現実世界とは違って、信号機やサインは空間に浮かんだビジョンでできている。
技術はピュータの方が圧倒的に上である。
「あの、すみません。『架け橋』が故障したって噂は聞いてませんか?」
「いやぁ、聞いてないねぇ。オピカスタワーならともかく『架け橋』の故障なんて聞いたことがないな」
俺は道行くピュータの住民らしき人に現状を尋ねてみたものの、これといった有力な情報は得られなかった。
ちなみにオピカスタワーというのは、オピカス社の本社があるピュータの象徴的な建造物らしい。
そこで、俺は役所を探して尋ねてみることにした。
そのままボーっと人混みを歩き、それらしき建物を探す。
その時だった。
歩道を歩いている老人を、誰かが車道に突き飛ばした。
いや、厳密には違う。
老人のバッグから、なにかを盗み出したのだ。
盗んだ奴はさっと歩道を走って行った。
そして老人は車道に倒れ込み、バッグからは荷物が散乱した。
そして、目の前にはトラックが―――
「まずい!!」
俺は驚きながらも、急いで老人の元へと向かう。
助けるために。
俺はその身体を起こし、歩道へと戻した。
すると、俺の目と鼻の先をトラックが猛スピードで走って行った。
少し遅れて、ガソリン臭い風が吹いてくる。
間一髪で、老人を助けることができた。
「すまんかったすまんかった」
「いえ、怪我してないですか?」
「あぁ。だが、大事なものを盗まれてしま―――」
「追いかけます!!」
俺は老人を置いて、ひったくり犯を追う。
今なら間に合う。
人混みの中とはいえ、その距離はたったの20m。
俺なら間に合う。
行き交う人をかき分けながら、必死に前に進む。
ひったくり犯は、ドクロのあしらわれたパーカーを着た、おそらく若者。
見失わないように、ずっと視界に入れておく。
「ひったくり!返せッ!!」
段々と距離が縮まってくる。
だが追跡者に気づいたらしい犯人は、速度を増して走る。
俺はそれを「加速」して追う。
ついに手が届いた。
しかも触れたのは、老人が盗まれた金属部品だ。
俺はそれを掴んで離さない。
「何だコイツ!手を離せ!!」
「嫌だ!!そっちこそ、さっさと返せッ!!」
すると、犯人は俺に根負けしたらしく、盗品を手から離して逃げてしまった。
犯人を捕まえることはできなかったが、ものを奪い返すことはできた。
胸が達成感でいっぱいだ。
老人の所へ戻ると、バッグの中身を戻し終えた老人が立っていた。
「いやぁ。本当にありがとう。感謝じゃ。お礼に、このリンゴをやろう」
「礼には及びません。けどありがとう。頂きます」
俺は老人に感謝を告げられ、リンゴを手渡された。
「ところでお前さん、渡ってきたらしいな。ピュータへの橋は通行停止になっていたはずじゃが」
「え、通行停止なんですか?そもそも、俺はサバナに行くつもりで―――」
次の瞬間。
突然の出来事だった。
空に浮かぶビジョンや飛行船の画面が、真っ赤に染まり始めた。
警告音のような、学校のチャイムのような音が鳴り響く。
辺りの雰囲気が一変する。
そして、空中から声が聞こえた。
「ピュータの皆様!解毒イベント、開始ですぅ」
女性っぽい機械音声。
なにかのイベントの開始が宣言された。
すると―――
「「「うおおおおおおお!!」」」
辺りの人々が、一斉にデバイスを操作し始めた。
スマホ―――によく似たものの画面を、必死にタップしている。
中には、ビルの壁にあるビジョンそのものを操作している人もいる。
ビルによじ登って、大型ビジョンを必死に叩く人もいる。
一瞬、俺はゲームのイベントかなにかと思ったが、皆まるで命が懸かっているかのような必死さだ。
これは一体、なにが起こっているのだろうか。
「―――これは、ゴードンの鬼畜がやることじゃよ」
すると、老人が表情を変えてそう言った。
「ゴードン―――?」
俺が尋ねると、老人は眉をひそめるようにして続ける。
「ゴードン・フィン・フィル。オピカス社の現会長じゃ。」
「そして、オピカス社だけでなく、ピュータさえも乗っ取った、生半可な言葉じゃ言い表せんほどの下衆じゃ。」




