01話「弾丸」
―――ここには、にんげんがいない。
―――ここには、にんげんとみなされているものがいない。
―――ここには、にんげんとみなされていないものがいる。
流星群が、夜空を舐めるように降り注ぐ。
水平線よりも先に、建物の影に消えてゆく。
そして、星なんかよりも眩しいビルの光が、視界に届く。
冷淡な街だ。
街を歩けば、そんな冷淡さをまとめたカタログを読んでいるような感覚を得られる。
他者との関わりを避けるようにして、視界を狭める者。
我を出さないように、無に生きる者。
有象無象という、誰を基準に構築されたのか分からない性質を自分に付与する者。
きっと、俺もその内に含まれるだろう―――
いやむしろ、俺には何もなさすぎるな。
ゼロだ。
本当に俺には何もない。
煙草に火を付け、一服。
からっぽの中身を満たすように、身体に煙を入れる。
すると、通りがかった奴に睨まれた。
ここでは吸うな、ここは禁煙だ、と目で訴えかけてくる。
―――知るか。
イライラしつつも、俺は吸い続けた。
だが、ニコチンを摂取しているというのに、イライラは収まらなかった。
依頼を終えたら、すぐ家に帰って何本も吸おう。
俺は誓った。
今回の依頼は、『ベクターストーン』を盗め、というものだ。
それは、今は使われていない地下鉄の路線の終点で守られているそうだ。
俺はそこに出向き、警備員をうまくかいくぐり、ストーンを盗んで依頼主に渡せば依頼達成だ。
情報の信頼度は高いが、場所が場所だ。
念入りな準備を済ませておこう。
ちなみに、ベクターストーンの能力は知らない。
まずは地上と地下とを繋げるゲートを見つける。
次に、階段を使って下に降り、線路に沿って進む。
複雑に入り組んだ路線だが、マップを見れば大丈夫だ。
マップで言えば、終点は右上にある。
今俺がいるのは、左下だ。遠い。
すると、初めて警備員に出会った。
手には拳銃を持ち、腰には警棒を備えている。
だが、戦闘に入るのは避けたい。
俺は戦闘狂ではない。
俺はトレジャーハンターだ。
「―――インビジブル」
『インビジブルストーン』を拳銃に装着し、その能力を発動する。
すると、俺の身体が透明になり、警備員には視認できなくなった。
警備員に接触しないよう注意しながら移動する。
周囲には3人の警備員がいたが、誰も俺の存在に気づかなかった。
無能め。
昔は俺も、他人に優しくしたり、憐れんだりした時期があった。
チクチク言葉も使わないようにして振る舞っていた。
だが、からっぽの俺はそんなことをしない。
無能は無能だ、そう素直に言うのが今の俺だ。
同じように警備員をかいくぐりながら移動していると、開けた空間に入った。
おそらく、マップ中央を大きく占める、荷物の保管場所だろう。
やっと中間地点まで来たということだ。
すると、パンパンパン、と立て続けに俺の身体がスポットライトに照らされた。
あらゆる方向から、強い光が向けられている。
するとなぜか、インビジブルストーンの効果が失われ、俺の姿が露わになった。
そして、光を遮るように、無数の人影が現れた。
「盗賊さァん?見えてますよォ?」
俺の前に現れたのは、ピエロのようなメイクをした警備員の男。
「ちっ―――最初から泳がせていたのか」
「アァーッご名答!いーいねェ!」
俺としたことが、不覚を取った。
地下に入るタイミングで、すでに俺の存在はバレていたのだ。
「さァさァ、おとなしく捕まってくれると、ありガたいんだけどねェ?」
「そんなこと、されてやるわけッ!」
俺はぐっと前に足を踏み込む。
がしかし、警備員たちに拳銃を向けられ、とどまる。
彼らは臨戦態勢にある。
いつでも俺を殺せる態勢をとっているのだ。
すると、ピエロが周りの警備員に拳銃を下ろすよう指示した。
そして、俺の左手が握っているものをじっと見て、言う。
「それが噂の『0』ですかェ!すゴーイねェ!」
俺の拳銃に気づいたというわけだ。
すると、胸のポケットから石を取り出した。
灰色の石、おそらくストーンだ。
そして、石を左手のウォッチに装着した。
灰色の光が、ウォッチを起点にして放たれる。
「―――やるか」
俺は被っていた帽子を深く被り直す。
そして、持っていた拳銃からインビジブルストーンを取り外し、新たなストーンを装着する。
『バレットストーン』だ。
俺が最も使い慣れた、弾丸の異能。
「バレット!!」
叫ぶと、俺の拳銃、もといウォッチ『0』が白銀の渦巻く光を発する。
そして、ストーンを反時計回りに回転させる。
すると、俺の後ろにメカメカしいガンマンが現れた。
オーラではなく、実体を持った存在だ。
「バルドレンジ!これから前方を撃ち広げる!!」
俺は召喚したガンマン、バルドレンジに命令する。
すると、バルドレンジは両手に備えた銃を撃つ構えに入った。
「へェー、強そうだネ。―――ゴースト」
対するピエロも、ストーンの能力を発動した。
すると、ピエロの身体が透けて見えるようになった。
『ゴーストストーン』は、おそらく身体を霊体にする能力。
物理攻撃を通さないならば、バレットとは相性がかなり悪い。
「アハー、残念。バレットストーンを使うって情報、お耳に入れちゃッてますよォ」
やはりか。
どこかで今回の依頼の詳細と、俺の能力の詳細がバレていたのだ。
だが、こんな危機は―――いや、こんな状況は日常茶飯事だ。
「バルド!!」
「あいよ」
俺がバルドレンジに命令すると、ショットガンのような強烈な弾丸が、とてつもない勢いで前方に放たれた―――




