11話「勝利と離別」
Cは身体を黒く変色させて、パワーアップした。
筋肉は以前よりも大きくなり、しきりにピクピクと脈打っている。
「あいつもストーンを?」
カイが尋ねる。
「いえ、ストーンもウォッチも見当たりません。けど、どうしてそんな事が―――」
マルカが答える。
その全身はいまだに外骨格に覆われ、戦闘体勢のままだ。
「発光を押さえるなんて能力のストーンかもな。そんな能力の噂、聞いたことないけど」
レイも答える。
だが誰も、一体あいつは何なのかということについて、全く分からなかった。
―――レイが吹き飛ばされた!!
急なCの一撃。
誰も反応できないスピードだった。
Cが今までに見せたことのないスピードでレイに接近して、その腹を下から殴りつけた。
体の中の血と空気が全て吐き出されるのような感覚をレイは覚えた。
身体が吹き飛び、闘技場の壁に激突する。
土煙が舞う。
すると次の瞬間、Cがマルカへと殴りかかった。
マルカはなんとか反応し、防御の姿勢を取る。
強烈な一撃。
クロスされた両手でうまくガード。
がしかし、あまりのパワーの強さに、マルカのクローの外骨格は耐えられない。
衝撃を吸収して、外骨格が割れた。
マルカは体勢を崩した。
そして、更なるパンチが繰り出されて、今度は無防備なその腹に入った。
ぐはッッ―――マルカもまた、レイに似た感覚を覚えた。
そしてその勢いのまま、闘技場の柵へと激突する。
その背中には、有刺鉄線のようなトゲがチクチクと刺さった。
「「がァッッ―――」」
二人は血反吐を吐く。
レイはなんとか起き上がった。
しかし、マルカは柵に磔にされたように動かない。
おそらく、動かずとも激痛、動いたら更なる激痛がその身体に走るのだ。
「レ、イさん。どうか頼―――」
そしてそのまま気絶した。
「・-・・・ -・・・ ・-・-- ・・ --・-・ ・-・-- ・-- -・--・ 」
―――お前は後で殺してやる。
Cが荒ぶった様子で声を発する。
ゲームやボクシングでいう、ダウン状態を取らせたという所だろうか。
その表情には余裕が見える。
「レイ!!君はまだ勝とうって言うのかッ!!」
カイが叫ぶようにして、レイに声をかける。
「―――あぁ、それが俺のやりたいことだ。信念だ。」
レイは口内の血を吐き出すようにしながら、カイに答える。
そして、異能の力でブーストしたステップを踏んで、Cの前に移動した。
黒と紫の壮絶な戦いが始まった―――。
Cは殴っては蹴り、斧を振り、レーザーを撃つ。
対するレイは、持てる力の全てを尽くして、迎撃する。
武器を発現させ、銃弾やレーザーを発射し、変幻自在の動きやバリアでCを翻弄する。
そのあまりの手数の多さに、カイもCも圧倒された。
だが、Cの身体は以前より硬さを増している。
そして、以前より速度の上がった巨体に攻撃をクリーンヒットさせるのは至難の技だ。
カイは、黒い物体が光速で移動しているとまで思えた。
バリアが展開されると、Cがパワーのゴリ押しでそれを破壊する。
それを見越していたレイは、そこに向かって剣や矢を射出する。
それらはCの身体に刺さるもすぐに抜け落ちてしまい、Cの歩みを止めるには至らない。
だが、無数の弾幕に隠れて、ハンマーを持ったレイが近づき、Cの身体に強烈な一撃を与える。
Cの身体が吹き飛ぶ。
すると、Cは吹き飛びながらも、レイに焦点を合わせ、レーザーを射出する。
まともにくらったレイの右手首から先が欠損した。
レーザーの熱で傷口は塞がったものの、その痛みは壮絶なものだ。
こうした戦いが何度も繰り返されてゆく。
レイとCは、互いに傷を負っていく。
すると突然、Cの全身の赤いラインが、周期的に発光し始めた。
緊急事態を知らせるランプのように、ピコ、ピコ、と間隔を開けながら光る。
そして、筋肉がどんどん肥大化して、今にも割れそうな風船のようになってゆく。
「レイ君!なんだかヤバそうな予感がする!!あいつ自爆するんじゃないか?」
「そうかもしれないな」
レイはクールに答える。
がしかし、あれを食い止めるほどの力は、もはや自分には残っていないと悟っていた。
だが、このままでは自分だけでなく、カイとマルカも攻撃に巻き込まれる。
レイは、周りの人間を助けることも「勝つ」ことに含まれていると考える。
「悪いな。俺は絶対勝つ」
「え―――?」
ゆえに、二人を助けるために身をもってCを食い止めることにした。
レイは、左手に握られていたサイキックストーンをコイントスの要領で上に投げ上げた。
そして―――
「サイキック―――!!!」
―――己に残された力を一滴残さず使うかのように、ストーンの力を発動させた。
両手をぐっと前に突き出し、ハンドルを握るような形を取る。
そして、時計回りに手を回転させ、ハンドルを操作するかのようなジェスチャーをする。
すると、Cは全方向から万力のようなバリアで押し込められる。
抗おうとするも、なかなか押し返すことはできない。
バリアは何層にも重ねられ、割れても割れても即座に展開される。
レイはハンドルを切るようにしてバリアのパワーを強め、Cを押し潰す。
Cの身体が膨張しながら、圧迫されていく。
「ぐっ―――オレは、勝つんだァあああああアアアア!!!!」
ついにCが臨界点へと達し、バリアの中で激しく爆発した。
バリア越しでも伝わってくる、振動と爆音。
バリアがパリンパリン、と何枚も割れていく―――
爆発が止んだ。
Cは跡形もなく消えていた。
残っていたのは、何層にも重ねられながら、あと一枚を残すのみとなったバリアであった。
だが、それもゆっくりと光の粒子と化していく。
勝ったのだ。
サイキックボーイは、Cに勝ったのだ。
「レイ!おい大丈夫かレイ!」
カイ―――俺は柵を飛び越え、レイのもとへと向かった。
壮絶な戦いを終えた戦士の少年は、力を使い切ってぐったりと倒れてしまっていた。
その左腕には、光を失った、ただの紫色の石。
それが時計にはめられていた。
もはや、太陽の光すらも反射しない。
「レイ!お前は勝った、勝ったんだ、やり切ったんだ!」
俺は必死に声をかける。
「けど死ぬのはダメだ!生き残って勝てよ―――!!」
「あぁ、これはもう、無理だろうな―――けど、最後まで、勝てた人生で、良かった」
吐血が混じり、息も絶え絶えの声が、俺に悲壮感を与える。
俺は涙を流した。
「違う、違うじゃん。適切な治療さえ受ければ、絶対治る。君もマルカもどうにかして治す。だからさ―――」
「あぁ、それはありがたいな」
レイは本当に治してもらえるというより、励まされているのだと思っていそうだ。
けど、死ぬのは違うじゃないか。
もっと聞きたいことだってある。
話したいことだって沢山ある。
なんなら、俺が現実世界に帰る手がかりだって持ってるかもしれない。
どんな口実でもいいから、ただひたすらレイに生きてほしいと俺は強く思っている。
「俺が、絶対君を―――レイを助けるから」
すると、レイの左手にある、先程までストーンだったものに変化が起きた。
急に空中へと浮いて、だんだんと青色の光を放ち始めたのだ。
そして、それに呼応するように、少年の身体が光の粒子となってゆく。
俺は声をあげる気力もなく、ただそれを見つめていた。
少年の身体が変化した粒子は、ストーンの中に吸われていった―――
そして、超常的な力と持ち主を失った石は、青色の発光をやめ、ポトッと地面に落ちた。
俺はその石を手に取る。
ただの青色の石だが、たしかな重みと、凄みを内包した石だ。
俺にはまだレイがその中に生きているように思えた。
持ち主を失ったサイキックストーンは、最後の最後まで持ち主を守ったのだと、そう思えた。
「レイ、俺がきっと―――」
きっといつか、治してみせる。
俺は誓った。




