10話「加勢と覚醒」
―――サイキックボーイと呼ばれている少年が、そこにいた。
「マルカ!助けを呼んできた!!」
「すまない―――」
カイに対して、状況を理解したマルカが申し訳なさそうに言う。
そしてそれに返事をするようにして、レイが質問をした。
「あいつはなんだ?」
「Cという恐ろしい存在です。レーザーに注意してください」
「あぁ、分かった」
そう言うと、レイはゆっくりと階段を下りる。
安心感を抱かせる声色だった。
そしてその歩みに、恐れや不安は見て取れない。
前の方まで移動すると、軽やかな動きでフィールドへと飛び、紫の光をまとって着地した。
そして自分と入れ替えるようにして、レイはマルカを観客席のカイの元へと飛ばした。
カイは彼の身体をうまくキャッチし、抱える。
全身に傷を負っていて、苦しそうな様子だ。
近くにある二つのウォッチからは、それぞれオレンジ色と黄色の光が失われていく。
だが、マルカの目にはまだ光があった。
「アンタ、何者?」
レイがCに質問すると、Cはその声をきっかけにしたように動き始めた。
じわじわと瓦礫を払いのけて、巨体がフィールドに屹立した。
だが、身体へのダメージが蓄積しているようで、動きがのろい。
「---・-」
―――殺す。
「あっそ、やれるもんならやってみろよ」
Cの言葉を異能で理解したレイは、挑発的な言動を取る。
すると、挑発に乗ったCが全速力でレイに突撃した。
マルカとの戦いでは見られなかったほどのスピードだ。
だんだん加速してゆく。
がしかし、Cの巨体は見えない壁に衝突して、吹っ飛ばされた。
ゴォォン、という重低音が響く。
レイが透明なバリアをCとの間に展開したのだ。
「いいぞ、レイ!!」
カイは、マルカの身体を支えながら、戦いを見守る。
自分を救った少年の圧倒的な力は、きっとCをも圧倒するだろう、と。
まず、レイは自身の頭上に5本の光る矢を発現させた。
見えない弓があるみたいに、矢が後ろにぐっと引かれ、Cを照準に定める。
そして、5本の矢が同時に放たれる。
ヒュンという風を切る音を伴いながら、まっすぐに矢は飛んでいき、Cの身体に刺さった。
Cがよろめく。
どうして、あんな矢がダメージを与えられるのだろうかと、カイは考えた。
おそらく、あの矢は見かけ以上に重いのだ。
そこらの戦士が持っているような、それこそさっきのゲググが持っていたような矢とは別格のものである。
すると、Cが両足で踏ん張って、ぐっと姿勢を固めた。
そして、今までに見たことのないような太さのレーザーを、とてつもない勢いで照射した。
対するレイは、斜めにしたバリアに鏡としての性質を付与し、レーザーを上方に反射させた。
空が切り裂かれ、異常な高熱によって、雲が消える。
辺りは雲一つない晴天になった。
だがその空が、レイですら受け止めきれない勢いのレーザーが放たれた、ということを物語っていた。
「カイさん、この威力は相当です。彼でさえ、Cに勝てるかは分からないということです」
マルカは、今すぐにでも助けに行きたそうだ。
身体がリスタートするのを待っている。
「あぁ―――けどレイなら勝てます」
―――勝利に貪欲なあの少年なら、勝てます。
カイはそう答えた。
どうやらあの威力のレーザーは連発できないらしく、Cは改めて斧を生成し、レイへと飛び掛かった。
斬る。斬る。斬る。
Cは何度も斧を振り下ろすが、レイのバリアに阻まれる。
その反動をものともしない様子で、なんども斬りかかる。
すると、バリアが一枚、割れるように消えた。
続く攻撃をうまく避け切れず、レイの右手にかすり傷ができる。
Cは攻撃の手を止めない。
レイは、一瞬の隙を突かれた為に、バリアを出すので精一杯だ。
やっとのことで、Cを衝撃波で飛ばし、口元から垂れた血を袖で拭った。
右手のかすり傷からではなく、口元から垂れた血を袖で拭った。
―――レイの身体の状態は、確実に悪化していた。
彼は今、サイキックストーンを使うことで、内的なダメージを負っているのだ。
Cの攻撃を受け止め、内側から襲う痛みに耐える。
グリーンピース―――緑色のゴリラと戦ったとき以上に、吐血しているようだ。
しかし、Cには、とてつもない硬さと体力を兼ね備えた身体がある。
レイには圧倒的な力がありながらも、今この状況では、圧倒的に場を支配することができないのだ。
左手のウォッチとストーンが、レイにとってはむしろ敵であるかのように思えた。
またもCが斬りかかる。
レイはバリアを出さずにフィジカルで避けると、右手から出した紫色のハンマーでカウンターを入れる。
Cはほんの少しだけノックバックを受けた。
だが、そんな衝撃はささいなものだという様子で、下から斬り上げるようにして斧を動かす。
レイの脇腹に傷が付く。
膠着状態が続く。
「くっ―――アンタ、もう動けるか!」
「動けます!」
すると、カイの支えを離れ、ついにマルカが動いた。
状況を打破するために、レイと二人で戦うのだ。
マルカは、左腕にはめられた腕輪に右手をかざす。
「クローッ!!」
クローストーンが、再度オレンジ色に輝く。
すると、彼の全身が甲殻類のような鎧に覆われた。
両手には、丸まったクローが、ボクサーのグローブのようにして備えられている。
クローストーンの能力を、守備と打撃の側面に寄せて発動したのだ。
まさに、第二ラウンドの始まりを予期させる姿だ。
始まりのゴングは、Cの雄叫びだった。
斧を捨てたかと思うと、拳をピンク色に肥大化させて、マルカに殴りかかる。
マルカもまた、右手でCに殴りかかる。
拳と拳がぶつかる。
すると、レイがマルカの右手目掛けて能力を発動させ、Cのそれよりも大きな、紫色のグローブのオーラをまとわせた。
正面衝突したCは、その巨体を簡単に吹き飛ばされた。
そこからは、圧倒的な戦いであった。
マルカがライアーストーンの能力を発動していないことなど、このタッグの前では些細な話だった。
マルカが強化されたグローブで何度も何度もCを殴る。
レイはマルカを強化しながら、矢やバリア、レーザーでCを攻撃する。
そしてCは防戦一方の状況にある。
斬る攻撃が効きにくい一方で、殴る攻撃は通りやすいのである。
ダイヤモンドも衝撃で割れうるのに近い話だ。
Cは全身に傷を負う。
殴られたダメージは各部位の動きの鈍さに現れる。
攻撃、防御にも荒っぽい部分が出てきた。
仮面は半分が欠けているが、その中は暗く、あまりよくは見えない。
ただ、中には赤い目のようなものがあり、発光している。
普通の人間なら、戦意を喪失しているところだ。
だが、Cには諦めの色が見えなかった。
否、Cには痛覚も諦めのプロセスもないのだ。
あるのは、人間を殺戮するという本能だけだ。
仮面の目が、ガッっと見開かれると―――
―――残っていたもう半分の仮面が砕け散り、その顔が露わになった。
「嘘、だろッ―――」
「―――人間か?」
真っ赤に光る両目を持った、人間の顔が現れた。
二人は信じられなかった。
ストーンを使っている様子は見られないのに、圧倒的なパワーや硬度、そしてレーザー。
とても生身の人間の持つ強さではないと思った。
あまりに異能的な強さだと思っていた。
だが、仮面の中には人間の顔が隠されていた。
この強さが人間の為せるものだという事実が、二人には信じられなかったのだ。
そして、真っ白のボディースーツと赤のラインにまったく不調和な顔の肌色が、生理的な嫌悪や恐怖を感じさせた。
Cは今までにないオーラを発すると同時に、叫んだ。
その叫びは、大声というよりむしろサイレンだった。
そして―――Cの身体の白色が、絵の具を混ぜるように黒色へと変わっていく。
圧倒的なオーラが身体から溢れ、筋肉が肥大化して―――。
Cは明らかに力を増して、襲い掛かってきた。




