9話「真偽と狡猾」
二者の距離は、1メートルにも満たない。
―――戦闘が始まった。
Cが上から斧を振り下ろす。
対するマルカは、横にワンステップを踏み、その垂直の軌道からさっと離れる。
そして、前方にもうワンステップを踏んで、巨大な右腕のクローを突き刺そうと突撃する。
あまりに素早く、隙のない動きから繰り出されるその攻撃をCは避けられない。
だが、避ける必要はなかったのだ。
たしかに、Cの巨体は素早く動ける類のものではないが、その耐久力はダイヤモンドに匹敵するほどのものだ。
マルカのクローはCの身体に突き刺さりかけるも、跳ね返されてしまった。
「チッ―――!」
二者は一度離れて、また距離を詰める。
今度はCが蹴りを入れようとするも、その足に飛び乗ったマルカが、Cの顔にクローを突き出す。
しかし、仮面にも傷を加えることはできなかった。
次に、Cが紅色のレーザーを放った。
予備動作なしで繰り出される致死の攻撃を、マルカはどうにかして避けた。
そしてそのまま前方にダッシュし、勢いよくクローを刺した。
クローの攻撃が初めてCに通るも、そのダメージは小さい。
右手の斧がさっと振られるのを避けて、バックステップ。
「ああア゛ァァッ!!」
「・-・・・ ・・・ --・-- --・-- --・--!!」
―――おらあああ!!
離れて、近づいて、離れて、近づくという攻撃の応酬が何度も続いた。
だが、圧倒的な体力を持つCに対して、マルカはただの人間である。
疲弊が目に見えてきた。
マルカの攻撃が空を切った。
すると、Cがこの機会を待っていたと言わんばかりに、振り下ろした斧の切っ先をくるりと回転させ、マルカに当てようと動かす。
この軌道の攻撃は、明らかに直撃する。
次の瞬間には、マルカの身体は真っ二つになるだろう。
しかし、マルカはその可能性も考慮してあった。
左腕の盾で受けても、そのパワーを受け止めきれるかは怪しい。
そこで、マルカはライアーストーンの別の能力を使うことにした。
「”"俺にお前の攻撃は当たらない―――"”」
「―――真ッ!!」
マルカが叫ぶ。
右手のウォッチから発されるオレンジ色の光に混ざるようにして、左手のウォッチが黄色に輝く。
すると、Cの斧の軌道がぐるりと向きを変えた。
否、Cが自ら向きを変えたのである。
Cは驚くも、自分の身体に当たるように動く斧を、かろうじて避ける。
自分で自分の首を絞めるところだった。
身体と斧とは同じ物質でできているから、矛盾の逸話のような、最強の斧で最強の身体を攻撃するという状況が起きかけたのである。
マルカのこの能力は、はっきり言ってチートである。
まず、マルカは対象に対して、質問ではなく事実となりうる仮定を提示する。
そして、その仮定の真偽をマルカ自身が確定させることで、その仮定は事実となる。
例えば、お前は自分で自分の命を終わらせる、という仮定を真にする、すなわち強制することができる。
そして、その事実の強制は永続する。
Cがマルカに攻撃を当てられないという事実は、永遠に残るのだ。
ただし、この能力は同一人物に一度しか使えないというデメリットを孕んでいる。
マルカが新たなことをCに強制することも、またできないというわけだ。
そして、その人物が為すのが明らかに不可能な事象を、能力によって為すこともできない。
例えば、お前は最速で1時間かかる距離の道を5分で踏破する、なんて事象を真にすることはできないのだ。
さっきの一幕は、マルカに攻撃が当たるという一度決まった事実を、斧をUターンさせられるほどのCの圧倒的なパワーが捻じ曲げたというだけである。
しかし、もうCはマルカを自らの攻撃で殺せなくなった。
これはもう、不変の事実である。
「貴様はもう、俺を殺せないッ!おとなしく負けを認めろ!!」
マルカは、さっと右に移動する。
Cはそれを追って斧を振るが、両手に不思議な力が働いて、あさっての方向に飛んでいく。
かろうじて斧を掴むも、遠心力によってバランスを崩して転んでしまった。
次にレーザーを放とうとするも、うまくできなかった。
目にパワーが溜まっているのに、マルカに照準を合わせると途端に力が抜けていくのだ。
Cは困惑しながらも、打開策を練ろうと必死に思考した。
すると次の瞬間、地面に勢いよく斧を叩きつけた。
バァァン、という衝撃音が鳴り響く。
地面が激しく揺れて、マルカは体勢を崩す。
そして、地面から分離した土塊や岩石が、あらゆる方向からマルカを襲う。
マルカは右腕のクローでそれらを破壊し、左腕のクローでなんとか身体をガードするも、全ての攻撃を受け止めることはできずに、くらってしまう。
Cからの間接的な攻撃を完全に食い止める術が、マルカにはないのだ。
―――がッ!
当たり所が悪かったのか、マルカが悶絶した。
その隙を見逃さなかったCは、即座にその目の前に移動して、またも地面を破壊した。
耕作をするように地面に打撃を加えるCと、その連続の攻撃になんとか耐えるマルカ。
異様な光景だった。
「ちっ、さすがに分が悪いな」
なんとか猛攻をかいくぐって、マルカは体勢を立て直す。
そして、圧倒的なスピードで、Cに何度も斬りかかる。
Cの硬い身体には致命傷となりうる攻撃を与えることはできないが、流石のCも連撃に押され、身体にいくつも傷を作る。
Cはカウンターという選択を取れないから、ひたすら身体を守るだけだ。
だが、Cは狡猾な存在であった。
マルカが離れた瞬間、Cは闘技場の観客席へと飛び移った。
今までになかったスピードの跳躍。
着地点は高級そうな椅子が並んだVIP席であった。
そして、そこにはなんとオーナーがいた。
「ああああああヤバーい」
「何してるんだお前!逃げなかったのかッ!!」
Cはオーナーを左手で抱えた。
目からレーザーをギリギリ当たらないほどに射出して、オーナーの首筋に近づける。
オーナーの肌が赤く照らされ、レーザーの熱に悶える。
Cはオーナーを人質に取ったのだ。
「助けてくれぇ副団長殿ぉ―――」
マルカは苛立った。
オーナーの態度に対してではない。
Cの狡猾さに対してだ。
決闘のルールを無視して、邪悪な行為を取られたからだ。
「貴様!それでも戦士か!!」
「--・- -- ・-・-・-」
―――死ねよ、人間。
マルカとC、そしてオーナーによる、緊迫した膠着状態。
すると、Cが右手の4本指を下に向けて、何度も上下させる。
―――武装を解除しろ。
マルカに対して、脅しをかけているのだ。
マルカは迷った。
あのオーナーに助けるだけの価値はあるのか、と。
己の命を投げ出すだけの価値はあるのだろうか、と。
だが、マルカは優しさを持った男だった。
人命を無視することはできなかった。
両手のクローを消滅させ、ウォッチからストーンをそれぞれ取り外した。
そして、二つのウォッチとストーンを地面に落とし、そのまま片膝をついた。
すると、Cはマルカに向けて何発もレーザーを撃ち込んだ。
下を向いていたマルカはとっさの出来事に反応できず、レーザーに貫かれ、体に無数の傷を負った。
致命傷となりうる威力のレーザーが当たらなかったのは僥倖であろう。
そして、Cが仮面の奥で笑った気がした。
「クソッ、貴様―――」
―――その時だった!!
紫色の光がCとオーナーを包んだかと思うと、Cの身体が吹き飛ばされた。
そして、オーナーがゆっくりと、離れた所に飛ばされた。
「何事だ!!」
マルカはその光の出所を見る。
観客席の上の方だ。
すると、そこにいたのは二人の人間。
一人は、さっき別れたはずのカイ。
そして、もう一人はみすぼらしい姿をしていながらも、強いまなざしを向ける少年。
サイキックボーイと呼ばれている少年が、そこにいた。




