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おやすみ前の短いお話

転生薬師は無難に生きたい

作者: 夕月ねむ

 空は眩しいくらいによく晴れて、風が木の葉を軽く揺らす。暑くもなく、寒くもなく。過ごしやすい一日になりそうだった。


 冒険者ギルドに立ち寄ってから、採取に出かける。依頼されているのはマルカ草、ダイダル草、ソルの木の若葉。作りたいのは初級回復薬かな、と想像する。


 依頼主はまだ若い薬師か、もしかしたら弟子がいるのかもしれない。初級回復薬は駆け出しの薬師が練習で作ることが多いものだ。


 私が行くのは森の浅い所だけ。あまり奥に行くと危険だ。木漏れ日も届かない暗い場所には魔獣が潜んでいる。


 私は冒険者だけど戦闘はほとんどしない。薬師の先生から習った薬草の知識を活かして採取依頼ばかりを受けているうちに、気付けば『採取専門』『薬草専門』と化していた。


 植物のことはあいつに聞け、なんて言ってもらえるのはちょっと嬉しいけど、討伐依頼を受けないから、冒険者ランクは上がらない。陰で『万年見習い』と言われているのも知っている。


 薬師になればもっと稼げる。だけど、それはしないと決めた。私は初級回復薬を作れない。調合スキルがチートだから。この世界に来た時、薬神の加護をもらったから。


 私が作ると、初級回復薬のレシピで中級回復薬ができる。中級回復薬のレシピで上級回復薬ができる。上級回復薬のレシピで最上級回復薬ができた時、最上級回復薬のレシピで何ができるのか怖くなった。


 蘇生薬でもできてしまったらどうしよう。この力が誰かに知られたらどうしよう。調合を教えてくれた先生も、私に「人前で薬を作るな」と言った。


 今だって、まったく薬を作らないわけじゃない。自分が怪我をした時のために、作り方を忘れないように、時々は調合の道具と向き合う時間を取っている。


 薬の調合を本業にはしない。怖くてできない。暮らしていくには今の仕事だけでも十分だ。


 私の薬で助かる誰かもいるのかもしれない。けど、それを気に病むほど使命感や正義感が強い人間ではない。だからこのままでも良いと思っていたんだけど。


 納品に行ったら、思いがけない話になった。

「新人の指導……ですか? 私が?」

 冒険者ギルドの職員が、若い冒険者たちが無謀なことをしないよう、森の歩き方や薬草の採取方法を教えてやって欲しいと言う。


 だけど……それをしてしまうと、今は私が受けている依頼も、他の誰かに取られてしまうかもしれない。仕事が減れば当然、収入が減るわけで。


 迷っていたら、冒険者ギルドのマスターに言われた。

「君が協力してくれたら、見習い冒険者の死亡率を下げられる。君さえ良ければ、ギルドの職員になって欲しいんだ」


 私がギルド職員に。それなら確かに、生活には困らなくて済む。

「わかりました。ちゃんとお休みをもらえるなら、引き受けます」


 それからひと月経った頃。《鑑定》スキルがあることがバレて、ギルドマスターから「それを先に言え!」と叱られた。


 給料が変わるそうである。もちろん増額だ。仕事も一緒に増えたけどね。








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― 新着の感想 ―
ここで話が終わるなら鑑定スキルのくだりは不要じゃないかと思いました。鑑定スキルの話で第二話を作られるなら、それも良いかも。
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