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堀籠短編集

婚約破棄された追放令嬢ですが、神スキル『有機堆肥生成EX』で辺境を大農園国家に育て上げたら、元婚約者が土下座しに来ました

テンプレっぽい? うるさいな、流行りもんは書ける時に書いとくんだよ。生活かかってるんでね。それに、ただのざまあじゃ面白くないだろ? 派手な魔法じゃなくて、一番地味で、一番大事な「土」で復讐するってのが、俺は気に入ってる。究極のスローライフからの成り上がりだ。

「エリアーナ・フォン・ヴァインベルク! 貴様との婚約を、今この時をもって破棄する!」


 大広間に響き渡る、若き王子エドウィンの甲高い声。その隣には、可憐な聖女リリアが寄り添い、怯えたような目で私を見ている。茶番だ。


「貴様のような、土いじりしか能のない地味な女は、次期王妃にふさわしくない! これからの我が国に必要なのは、リリアの持つ聖なる力『奇跡の御手』なのだ!」


 エドウィンが高らかにリリアの手を取ると、彼女の手のひらからふわりと光が溢れ、足元の石畳から一輪の美しい花が咲いた。貴族たちが「おお……」と感嘆の声を漏らす。


 私のスキルは『有機堆肥生成』。枯れ葉や生ゴミから、極上の堆肥を作るだけの能力。王子が「土臭い」と蔑むのも無理はない。


「よって、貴様を辺境州へと追放する! 二度と王都の土を踏むことは許さん!」


 私は静かに一礼した。言い返す言葉もない。そもそも、こんな王子にも、彼が治めるであろう国にも、未練など欠片もなかったからだ。


「……御意のままに」


 こうして私は、着の身着のまま、痩せこけた馬一頭と共に、草木も生えぬと言われる北の辺境州へと追放された。


 辺境州は、噂に違わぬ不毛の地だった。人々は痩せ、畑はひび割れ、食料は常に不足している。子供たちの頬はこけ、目には光がない。


「ようこそ、エリアーナ様。何もございませんが……」


 やつれた顔の代官が、申し訳なさそうに頭を下げる。


「構いません。ここで、私は生きていきます」


 私は覚悟を決めた。私の唯一の力、この『有機堆肥生成』スキルで。


 私は早速、村人たちが捨てた生ゴミや家畜の糞、枯れ草を集めてもらった。人々は訝しげな顔をしていたが、元公爵令嬢の命令に逆らうこともできず、しぶしぶ従ってくれた。


 小高く積まれたゴミの山を前に、私は静かに手をかざす。


「スキル、『有機堆肥生成EX』」


 蔑まれた私のスキル。だが、その正式名称を私は誰にも告げたことはない。『EX』――エクストラ。規格外の称号。


 私の手に触れた瞬間、ゴミの山がまばゆい黄金色の光を放ち、悪臭は芳しい土の香へと変わる。数分後、そこにあったのは、ふかふかと柔らかく、生命力に満ち溢れた奇跡の「土」だった。


 その土を、ひび割れた畑に混ぜ込む。そして、備蓄されていた最後の種を蒔いた。


 結果は、三日後に現れた。


 芽吹くはずのなかった種は力強く芽を出し、一週間後には人の背丈ほどに成長し、見たこともないほど大きく、瑞々しい野菜を実らせたのだ。


 一口かじった村人の目が、驚愕に見開かれた。


「う、うめえ……! なんだこれ、涙が出るほど美味えぞ!」


 その日を境に、辺境は変わった。


 私の作る奇跡の土は、どんな不毛の地をも豊かな大地へと変えた。作物は一年中、途切れることなく実り、そのどれもが信じられないほど美味だった。余った作物は保存食に加工され、他国へ輸出された。辺境州は瞬く間に豊かになり、飢えていた民の顔には笑顔が戻った。


 人々は私を「豊穣の聖女」と呼び、慕ってくれた。追放された令嬢は、いつしか「大農園国家グリーンゴールド」の若き女王となっていた。


 そんなある日、一人の使者が私の城を訪れた。


 みすぼらしい身なりをしたその男は、私の前で震えながら平伏した。


「エ、エリアーナ様……! エドウィン王子が、お目通りを願っております……」


 玉座から見下ろすと、そこにはやつれ果て、見る影もなくなった元婚約者の姿があった。


「……何の用です、エドウィン殿下」


「頼む……! 我が国を、民を救ってくれ! リリアの『奇跡の御手』は、土地の生命力を全て吸い上げて咲かせるだけのまやかしだったのだ。今や、王都の畑からは雑草一本生えてこない……。民は飢え、国は滅びかけている!」


 彼は私の足元にすがりつき、涙ながらに訴える。


「私が間違っていた! 君こそが真の聖女だったのだ! 頼む、エリアーナ! もう一度私と……いや、この国を救うために、后として戻ってきてはくれまいか!」


 私は冷ややかに、その無様な姿を見下ろした。


「お断りします」


 きっぱりと告げると、彼は絶望に顔を歪ませた。


「では、せめて食料を……! どのような条件でも飲む! この通りだ!」


 彼は床に額をこすりつけて、何度も土下座を繰り返した。


 私は立ち上がり、窓の外に広がる黄金色の麦畑を見やりながら、静かに告げた。


「よろしいでしょう。我が国の余剰食糧、特別に買い付けを許可します。代金は、そうですね……貴国の全財産で、ちょうど見合うくらいでしょうか」


 振り返ることなく告げた私の一言に、彼が息を呑む気配がした。


 ざまあみろ、なんて思わない。ただ、自分の民と、この豊かな大地を守る。それだけだ。私の復讐は、誰よりも幸福になることなのだから。

やっぱ「ざまあ」は書いててスッキリするな! 読者のカタルシスを的確に突くのが人気作の秘訣って言うしな 。派手な魔法じゃなくて、地道な努力スキルだけどが報われるって展開、俺は好きだぜ。

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