表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

第四話


直ちに町の広場に住人や旅人全員が集められた。


その頃にはもうすっかりと霧は晴れ、朝日の日差しが広場に燦々と照らし始めていた。

薄暗さはすっかりとその日差しによって駆逐され、本来ならばこの朗らかな陽気によって皆、澄んだ気持ちで朝を迎えられていただろう。


ところが彼らの朝は怒号と叫びとで始まった。


ランツクネヒトの隊長は兵を動員して乱暴に家々から人々を連れ出したのだ。

それはたとい、足の不自由な老婆であろうと、寝たきりの病弱な子供であろうとお構いなしだった。


次々と家から出されていく彼らは兵士たちの怒号に捲し立てられながらも戸惑いながら広場に向かった。


住人の連行には自警団の連中も駆り出された。


彼らはランツクネヒトの隊長の威厳に満ちた命令の下、本来市民を守るはずが市民を追い立てる側となって動員された。


どの連中の顔にも困惑という文字が書かれていた。



そうして広場に民衆が集められると、あのランツクネヒトの隊長が群衆の前にやって来た。


後ろにはランツクネヒトの軍勢が控えており、酷く規律正しく整列していた。


そうして隊長は低く、そしてよく響く声で群衆に語りかけた…







「ここに集まってもらったのは他でもない…」


隊長はそこで一瞬間を空けると、空気を目一杯吸い込んだ。

そして…町中に響き渡るような声でこう言った。


「貴様らに死刑を宣告する!」



























静寂が広がった。


たった一瞬だけだが…


皆、誰もが顔を見合わせた


すぐにあたり一体は混然と喧騒とで占められた。


中には怒号をあげるものもいたし、何かの間違いだと言う人もいた、


そんな中で一人、進み出る者がいた。


誰あろう、町長である。


「隊長さん…悪い冗談はよして下さいよ…。私たちはなあんにも悪いことはしていませんよ?そればかりかここで泊めて差し上げているんじゃあありませんか。それにあなた、昨日軍旗に向かってこの町に手を出さないと言ったでしょう?よもや忘れたんじゃあるまいに…。」


隊長はそれに対して極めて侮蔑的な表情を浮かべ、そして声も嘲るような声で尚且つ不自然なほどの丁寧さでこう言った。


「これはこれが町長閣下殿…、申し訳ありませんが、これは悪い冗談でもなんでもございません…。私の先ほどの宣告はれっきとした死刑宣告であります…。それに昨日の軍旗への宣誓はね…忠良なる臣民に対して行ったものでございましてねえ…。犯罪者集団に対して行ったのではございませんよ…。」


その嫌悪感を煽るような気色の悪い答えに、長い髭を蓄える町長は毅然とした態度で受け答えしようとした。


「隊長閣下…?犯罪者集団というのは我々のことではありませんでしょ…」


その後に言葉は続かなかった。


代わりにそこに響いたのは爆竹を鳴らしたような音…


銃声音であった…。


その直後、町長は後ろ向きに一歩、二歩下がると…


両手を大きく広げて仰向けで倒れ込んだのだった。


町長の額からは血がドクドクと流れ出ており、赤黒い水たまりが町長の頭の周りにできつつあった。


隊長の手には、新式の拳銃が握られているのあった。



すぐに悲鳴が上がった。


あたりは先ほどより以上の喧騒とで占められた。


群衆の顔は須く歪み、


逃げ出そうとして兵士に止められる人が何人もいた。




「次に続く者はいるか?!?!?!」


隊長は群衆にそう問いかけるのだった。












もちろんだが、誰も後に続くものはいなかった。


だが、代わりに抵抗する者がいた。


「チッキショウ!なんで俺たちが処刑されなくちゃならんのだ!おのれ!毎年毎年思い税を払っていてこの仕打ちかよ!」


そう言ったのは自警団の隊長である。


「おい!自警団のみんな!こんな奴らに従う必要なんかどこにもないぞ!だから…」


言い切らないうちに、群衆を取り囲んでいたランツクネヒトの一人がその男の元に近づいて来た。


そして…その男に剣で斬りつけた。


「ギャアアアアアアア!!!!!ヴ、ヴ、ヴ、ヴ、ヴ…アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


男は脚を斬りつけられた。


その悲鳴はよく響いた。


よく木霊した。


ランツクネヒトはその悲鳴を認識すると、満足気に元の隊列に戻って行った。


「見たか!」


隊長が再び叫んだ。


その平凡な顔をいかにも罪を宣告する裁判官のように気取って…


「これが証拠だ!貴様らは自分の罪を認めるどころか抵抗しようとした!どうして処刑しないでいよう!」


誰も答えるものは居なかった。


ただ、人々は猛烈な汗と血の気のひく感覚を覚えながら、目を見開いて地面と自分の足を見つめることしか出来なかったのであった。














…………隊長さん……


………何で…何で…


「数えろ!!」


数えろ…?


どういうことだ…?


…兵士たちも戸惑っている…?


あっ…下士官の一人が兵士の元に向かって行った…


「ここにいる処刑する人間の数を数えろと言ってるんだ!!急いで数えてこい!!」











命令された兵士たちは群衆の元に進み出てきて数え始めた…


「一、ニ、三、四、………………」


ノロノロノロノロ………

ノロノロノロノロノロノロノロノロ…







「気おつけええええ!!!!!!」






ビクッ


そんな音がここの広場から聞こえてくるようだった











さっきの声は…


あの…隊長か…?


「早く数えろと言ったんだ!俺は一刻でも早くここの人間を全員数えて処刑したいんだ!」


エッ…


「勘違いしているようだが貴様らに言うと今回の処刑はいつもと違うぞっ!!今回の場合は最上級の逆賊の処刑だっっ!!!!こんな連中どもは早く始末せねばならんのだっ!!処刑した人数もお上に報告せねばならんだからおまえらに数えさせてるんだっ!!だからっ!!」


最上級の逆賊…?


?????????


「早く数えるんだっ!!」


??????


どうして…?


何故私たちが逆賊なんかと…??


「1、2、3、4、5、6、7、…………」


また数え始めた…


最初はゆっくり…


「8、9、10、11、12、……」


早くなってきてる…


「13、14、15、16、17、18、…」


もっと早くなった…!


「19、20、21、22、23、24、25、26、」


あゝ、まるで野生の馬のような速さで数えるようになった…!


私の…私の番もくるっ……!


来ないでっ!


まだ…まだ…死にたくないっ…


心臓が動悸が止まらない…


汗がダラダラと流れる…


手は震える…


目には液体が…


ああ、だめだダメだ!


ダメっ…


ああ今どこまで来てるの?


あゝ、群衆のあんなところまで兵士がきてる…


アイツら…数えた人たちを10人単位の列で並ばせてる…


だめよ、逃げられない…逃げたらあの町長さんと同じように…


………………………………………………………………


………………………………………………………………


………………………………………………………………


………………………………………………………………


………………………………………………………………


………………………………………………………………


くうっ くっくっ ううっ うっうっ


うっううううううううう


ううううううううううううううう


あっあああああああああああああああああ


…………


「嫌だ!見逃してくれ!俺はまだ…」


……………


「だめよ!せめてこの子だけでも見逃してっエエエエ…」

……………


「わ、ワシは…」


……………


「なんでなんで!俺は旅人だぞ!なんで処刑されなくちゃいかんのだ!」


………………


「Netsu! eo rett hip yuijh tyuvh!」


………………


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、


、、、、



「285」


あっ…


あの兵士っ…


私の肩を掴んで数字を言った…!


あゝっ!


死ぬんだ!


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ………


どうしてっ


なんでなんで…


宿が焼けた上にこんな仕打ちまで…


嗚呼…











、、











「隊長閣下!!」


隊長は部下のその呼びかけに応じて身をくるりと回して部下と正面に向かい合った。


「数え終わりました全部で286名です」


「ウン、なるほど。で、こいつを含めると…」


隊長はそう言いながらブーツですっかり冷たくなった一人の老人の髭をいじりながら答えた。


町長の額からはいまだに血がドクドクと流れており、その匂いに釣られて昨日の夜に広場で寝そべっていた赤毛の犬がじっとそれを見つめていた。


「287人だな…」


隊長は赤毛の犬を一瞥するとしばらく考え込んだようであった。

しばらくすると勢いよくその遺体を蹴り飛ばして犬の方まで飛ばした。

犬は嬉しそうにその遺体を嗅ぎまくると、噛み始めるのだった。



「よし、早速処刑だ!銃殺とパイクの突きによる処刑で分かれてするぞ!」



隊長がそう言うと、命令一下、直ちに万事は動き始めた。




















アッ…アッ…どうして…


何でこんな目に遭わなくちゃ…


アッ…一番目前の列と、そのすぐ後ろの二番目の列の人が…


一番前の列の人達は…すぐ近くの建物の壁際に立たされている…


二番目の列の人は…その隣の建物の壁際に…



「構ええええええ」


アッ、一番目の列の人達のところには銃殺隊が…


二番目の列の人のところにはパイク兵達が…




「狙えええええ」




アッ…アッ…そんな…




「撃てえええええっ」


ズドドドドドン





「突けえええええええ」



ウオオオオオオオオオオ


ギィアアアアアアアアアア


ドスッ


ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛







……………何でこと…何てこと…


一番目の列の人…皆んな死んでしまった…若干呻き声が聞こえるけれど…


でも…それ以上に…パイク兵に刺された人たちが…


ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛


まだ…まだ…生きている…!




「オイ!うるさいぞ!軍曹!」



「へ…ヘイ!隊長閣下…しっかしパイクではどうも即死させるには…。」


「エエイッ!ならばお前らが使うなまくらでも剣でも何でもいいからそれで首を斬ってしまえっ!」


「えっ、それは…」


「ツベコベ言うなっ!!!」


「へっヘイいいいい」










アッ…一斉に刀を抜いた…


何を…



ズバァァ



アッ…アッ…


首が首がッ!


転がって来た…


………はっ…はっ…


イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア













「ク、クソッ…」


「オイ!どうした上等兵!」


「切れ味が悪過ぎて…首がっ…うまくっ…切れないんですっ」


ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛


「チッキショウ…何て酷い」


「フンッ!フンッ!」


ズバァ


ブッシャアアアアアアアアアアアアア


「ウオッ!血がっ…」


「はアッ…はアッ…」


「オイ、お前はもう休め!次だ!次!」


「ヘイいい」












嗚呼…三番目と四番目の人がッ…


あんな風に…あんな風に…私たちは死ぬの?


私たち全員が?


そんな…そんな…


嗚呼ッ


死が…死が…目の前にいる…


死が私たちを襲う…


誰も逃れられない…逃れられない…


アッあれはッ…ボログさん…


あれはッ…自警団の隊長さんの奥さん…


あの人たちも…あの人たちも皆死ぬの?


見知った顔でも容赦なく…


ダメだダメだ…


狂いそう…



ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛


またあの悲鳴が木霊している…


嗚呼…





















「よおしッこの一列が最後だッ!!!」


あれから数十分が経った…


壁際には大量に死体が積まれている…


空ではさっきまで晴天だったのに、酷く黒い雲が空を覆い始めている。


「お前たちよぉく頑張った!これが最後の仕事だっ!」


見ると兵士たちは皆顔を歪ませ…蒼白だった…


「チッキショウ!ここで死ぬのかよ!」


見るとあの道化が、ジョハネス・サンポウ博士といた。


「ご主人様!どうにかならんのですか!」


「……………まあ待て…我々は助かる。」


「そうはいいますがね!ちっとも助かる気配はないじゃないですか!」


「ヴェンチェリヒ君、私のカンを信じなさい。」


あの道化…ヴェンチェリヒと言うのか…


「オイ、若造。」


「何だいっ。」


アッ、あの若い学生と没落騎士も同じ列にいたっ



「……もう死ぬんだよな俺たちは。」


「ああそうさ、俺たちは死ぬんだ。」


「はあ……こうまで憂き世というのは儚いものだったんだなあ。」


「…………嗚呼。」





死か…



乾いた土を踏み締める。


少ししたら私もこの土を自分の血で汚すこととなる。


あと少ししたら…


たった少しの時間ので…


こんなことで死ぬのか?


こんなにも命というのは儚いものなのか?


こんなにも惨めな死を…迎えるのか…?


こんな…こんな…



ア…


雨が降って来た。


これは…土砂降りになりそう…


そうすると…自分の死体は…


泥まみれで無残な姿に…


嗚呼ッ、いやだいやだ…


でもそれがッ…運命…


………そして…


それは…


刻一刻と近づいている…





「早く壁に並べっ!!!」



壁…


これが私が最後に見るもの…



手を壁に当てる…


ふと、横を見る。


知らない男の人がいた。


素晴らしく美麗な顔立ちの…


「構えええええええっ」


嗚呼死ぬんだっ


死…死…


……………………………………………………………………………………………………

………………



何…これは…


何この白黒の頭に流れてくるものは…


誰…?この人たちは…?


皆んな知らない人…


銃を持っている人たちも並んでいる…


変な鉄の塊を頭につけてる…?


アッ銃を構えた…。


ズドドドドドン


撃ッた…


皆んな倒れる…


……………???


なんでこんなものが…


走馬灯でもなくこんなものが…


???????



「狙えええええええ」


アッ…死ぬっ




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ