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失言と圧

 国際カンファレンスでのテロを結果として死者0、怪我人も少人数で済ませた煉とユラは、こっそりと帰国し、煉の家に寄り必要なもう1人と合流した後に、来栖の研究室に訪れていた。

 ユラの予想だとカンファレンス会場で合流予定であった鈴はいない。彼女からは主人や『ロイヤル』、『スロウ』が去ったあと

「やることできた。また籠る」

 とのメッセージのみが送られてきた。いつもの感じからするとダンジョンに籠って修行するつもりなのだろう。


「鈴さんが修行できるようなダンジョンってこの世の中にあるんですか?」

「世界は広いですからね。まあ特級ダンジョンにも上下があるということです。まあそれでも鈴ちゃんが苦戦するようなダンジョンは少ないですね。それこそイレギュラーや氾濫が起きない限り」

「あの人だとそういうトラブルが起これば起こるほど強くなってくような気がします」

「...それは一理ありますね」


 非常識な者を理解するのは難しい。最も煉やユラも大概非常識側の人間ではあるのだが。


「鈴さんってどちらの人なの?」


 この場で唯一、鈴を知らない者が発言する。ドライアドのドリーである。今回、来栖の研究室に来た目的的に必要な人材であったため連れて来られたのである。


「ドリーは知らないか。結構テレビやネットにも出てるんだが」

「『理想郷計画』のときはあんまりそういうのやってなかったの。やってたのは煉の動画見てたくらいなの」

「そうなのか。まあ変にドリーが情報を持つのは『理想郷計画』的にも好ましくないか」


 ドリーは『理想郷計画』に使われており、神秘の森に毒龍が出現する前までは森に籠っていた。そのため世情には疎い。ドリーとしては流行を押さえてる植物と会話すれば必要な知識はすぐに得られるため、常態的に情報を収集しようという意識が少ないのも理由の1つであった。


 そんな会話をしていると来栖が室内に入ってくる。


「ごめんー。遅れたー」

「いえいえ来栖さん。私たちが早く来すぎただけです。謝るならその間延びした口調を謝って下さい」

「えーユラは相変わらず冗談がキツイねー」

「冗談ではありませんよ。来栖さんももう三十路なの――」

「え、なんて?」

「いえ、なにも」

「そうかー。なら準備しちゃうからーちょっと待っててねー」

「はい」


 珍しく失言するユラに圧を放つ来栖。煉も来栖の口調が変わる瞬間を見るのはほとんどないが、煉でさえ気圧されかねない迫力、ドリーに至っては煉の後ろでビクビク震えていた。


「こわいの」

「大丈夫だ。あれは俺も怖い」

「当たり前です。現役を退いたとはいえ元日本最強の探索者のパートナーだった人ですよ」

「認識してるなら挑発しないで下さい。ドリーが怯えてます」

「あの来栖さんが年齢であそこまで怒るとは。時代は変わりましたね」

「...また怒られますよ」


 そんな話は幸い来栖には聞かれていないようで、彼女は淡々と準備を進めていくのだった。


 準備が完了し、煉たちは各々席に着く。今回の議題は単純に原初スキルの対処法について、それだけである。

 ここに集まった者は現状、原初スキルでの攻撃に対処できる唯一の人材と言っても過言ではない。ユラ、ドリーは純粋な原初スキル持ちであり、煉は原初スキル装備の所有者、その原初スキル装備を作った来栖。原初スキル対策を考える上で最上のメンバーであると言えるのだった。


 

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