似非聖域
今回のカンファレンスの目玉の1つ『聖域』が会場に運ばれてきた。それを見たユラは怪訝な表情を浮かべた。
「前に見せてもらった初期型の『聖域』と全然違いますね」
「そうなんですか?」
「じっくり解析してないので詳しいことは言えませんが、あれは『聖域』と根本的に異なる何かですね」
「製作が間に合わなくてハリボテを用意...いや今からデモンストレーションで起動させるって言ってましたからそれは無いか」
機械関連でのユラの観察眼は凄まじい。ユラが違うと言うのならば運び込まれたモノは『聖域』では無いのだろう。
とここで煉とユラは、詳細不明のモノを運び込んできた者たちへの違和感を察知する。
「軍人ですか? 探索者じゃなさそうですけど」
「分かりません。しかし銃火器類を所持してますね」
「銃火器...取り敢えず似非『聖域』をユラさんのスキルで封じれますか?」
「それは出来ますが、起動前にそれをやると相手に言い逃れされます。しかも『聖域』が壊れれば賠償だなんだと面倒になりますよ」
「はい? まあそうですね...」
煉は、ダンジョン内以外での面倒事は迷惑なので起こる前に対処したいと考え提案する。ユラも煉と同じ考えだと思っていたのだが、消極的な態度からは別の思惑を感じる。
しかしユラの目利き以外の根拠がない状況でカンファレンスの目玉を停止させることが難しいのも事実である。そのため煉たちは似非『聖域』が起動されるのを待つしかないのであった。
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「銃火器...取り敢えず似非『聖域』をユラさんのスキルで封じれますか?」
親友の弟子であり、可愛い後輩にそう聞かれたユラは、曖昧な返事でお茶を濁した。怪訝な表情を浮かべユラの方を見ていることは分かっているが、それに対して今、ユラが掛けられる言葉は無かった。
ユラが今回の国際カンファレンスに来る切っ掛けになったのが今、ステージ上に運び込まれている『聖域』である。
『聖域』は元々、ユラたちの先輩である来栖が初期型の設計、開発を主導していた。その目的は『ミナミの惨劇』を二度と起こさないように、スキルが暴走したとしても外部から制御できるようにすることであった。しかし探索者のスキルを参考に開発している『聖域』では原初スキルを制御できないと悟った来栖は、『聖域』の開発から手を引くこととなる。
来栖という希代の天才が抜けた『聖域』プロジェクトは、初期型の劣化を製造し続ける産廃プロジェクトと化していた。その筈だった。しかし突如とある企業がそのプロジェクトに加わった途端、『聖域』は完成し、国際カンファレンスで発表するという運びとなった。
不審に思ったユラがその企業を調べてみたが、ほとんど何の情報も掴めなかった。『聖域』を完成させる技術力とユラですら突破できないセキュリティ。一般企業が持ち得る力では無いだろう。
「とすると《《アイツ》》が関係してる可能性もありますね。ますます来栖さんには言えませんが」
「ユラさん、何か言いましたか?」
「いえ、なにも」
「そうですか。...そろそろ起動されそうですよ」
煉の言葉でステージを見ると開発チームの代表が『聖域』の説明を終えたところであった。
「それでは今から『聖域』を発動したいと思います。範囲はこの会場全体を設定いたします。それでは行きます! 『聖域起動』」
代表が『聖域』を起動させた。その瞬間、会場は怠惰に包まれた。
幸いユラの体は怠惰と反発を起こしたため何も起こらなかったが、周りの探索者や開発者たちは軒並み倒れ込む。無事なのは隣の煉と『聖域』と一緒に入ってきた怪しい者たちだけである。
「ユラさん、あれ、原初スキル」
「機械越しにスキルを発動したのですか...」
「取り敢えずあいつら押さえます!」
「はい」
ユラたちは、隠し持っていた銃火器を構えた者たちの迎撃に向かうのだった。




