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聖域

 国際カンファレンス当日、煉が会場に入ると中にいた探索者たちの視線を一気に集める。その中には知り合いも多くいた。

 そんな注目度マックスの煉に最初に話し掛けてきたのは『Fairy-Fairy』のクランマスターであるマリー・エリザビュートであった。


「お久しぶりデスネ、レン。『アトラ』ではウェンディーもお世話になったと聞いてマス」

「お久しぶりですエリザ。そちらのサブマスターとはお世話というほど関わった記憶もありませんが」

「へーそうデスカ」


 エリザビュートは何やら探るような目線で煉を見つめてくるが、煉としては本当に関わりがなかったので、心当たりがない。その様子に何かを悟ったエリザビュートは去っていった。

 エリザビュートが話し掛けてきた事を切っ掛けに、多くの者が煉の周りに集まってきた。それらを対応するにつれ煉の表情も曇りはじめる。そして限界に達する直前、世界最高峰が集まる会場中でも真にトップと呼ばれる存在が入場する。


[こんにちは、皆さん]

[げ、『機械姫』...ああ、Ms.ユラ、お久しぶりです]

[貴方たちが囲んでいる少年とお話したいのですが宜しいですか?]

[え、今私たちが...]

[わかりました。『剣姫』が弟子に宛てた伝言よりも大切なお話なのでしょう。どうぞ引き続きお話してください]

[『剣姫』の弟子! いや、待ってくれ! ちょうど話が終わったところだ。これにて失礼するよ]


 ユラが少し会話をした瞬間、煉を囲んでいた探索者の輪が霧散した。


「ありがとうございます」

「注目されてますね」

「そうですね...ところでさっきの人たちが凄い形相で自分を見てたんですが、何を言ったんですか?」

「煉くんのバックにはヤクザがいるから気を付けろと脅迫しただけです」

「バックにヤクザって...ユラさんもそんなあからさまな冗談言うんですね」


 ユラは冗談魔であるが、本当か冗談か分からず周りが困るタイプの冗談を言う印象があった。


「あら? 質が落ちてしまいましたか。これは精進が必要ですね」

「それでも助かりました。何か風評被害は被りましたが」

「それは重畳です。煉くんを振り回して良いのは鈴ちゃんと私だけですから」

「冗談ですよね」

「勿論です。茜さんや氷華もですからね」

「...そう言うことではないですが」


 煉がユラに苦手意識があるのは、ユラが何を考えているか分からないからでもあった。


―――――――――――――――


 国際カンファレンスが始まる。今のダンジョン情勢を解説し、それについて多くの探索者たちが意見を出す。通訳や翻訳アプリがあるため内容は理解できるが、特に発言するつもりも無い煉は完全に聞き専に徹していた。


[――ダンジョンの危険性を問うのならば、戦力を固めて不可逆型ダンジョンをどんどん攻略すれば宜しいのではないですか?]

[新規のダンジョンも次々に発生している現状でそんなこと出来るわけないだろ!]

[貴方たちがダンジョン弱国と見下すジャパン出身の探索者たちでも、日常的にダンジョン踏破をしているのに?]

[そ、それは...]


 不毛な争いに参加するつもりも無いとも言える。国際カンファレンスで発表される諸々は大抵、優れたものであるが、それを元に会議されて出た結論が優れたモノであったことは少ない。探索者はダンジョンのプロであっても政のプロではない。そしてこの国際カンファレンスの場は自分たちのホームのダンジョンではないのだ。

 そのため皆で頑張ろうと言うようなお茶を濁した結論で終わるか、実現不可能な理想を掲げて終わることが多いのだ。今回もそうなったようであった。


[それでは新アイテムの発表パートに移りたいとおもいます]


 ただ今年の国際カンファレンスでいつもと違う点は、この新アイテムの発表であった。強さという人間社会においてダンジョンが現れるまで淘汰されていた指標、それを持っていたことにより高まっていた探索者の地位を揺るがす可能性を秘めた新アイテム『聖域』が世界最高峰の探索者たちが集結する場で御披露目されるのである。

 もし『聖域』によって彼らの強さが制限されるようであれば、探索者全体の地位が低下することを意味するのだ。


「全員が『聖域』のせいでそわそわしているのに、煉くんはあまり興味なさそうですね」

「特には。ダンジョン探索に関係するアイテムでもありませんし」

「まあ比較的、近接戦闘者(インファイター)には影響ありませんからね」

「そうですね。そう考えるとユラさんは関係ありそうですが?」

「人が開発するアイテムの大半がダンジョン素材と機械の融合である以上、私には通用しませんから」

「流石『機械姫』です。...でも今後スキルを封印するようなアイテムが発明されて鈴さんの《《アレ》》が封印されて効果が発揮されなくなったら、相当ヤバいことになりませんか」

「それは私も憂慮していることですが...成るようになるでしょう」

「そうですか?」


 そんな会話をしていると遂に『聖域』発表の番が回ってくるのだった。

 

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