現地到着
国際カンファレンス前日、煉は開催地であるアメリカ、ワシントンに到着する。早い者は一週間以上前からワシントンを満喫しているらしいが、煉は様々な理由から日程的にギリギリの到着を選択した。
政府直轄ダンジョンという餌がなければ興味もなかったイベントである点に加え、ユラと鈴の件もありワシントンに来るのは気が進まなかった煉であった。ただ後者については、早く来ても結果は変わらなかったのだと悟る。
「何をそんな、ああ、この人には俺の思考はバレバレなのか...みたいな顔しているんですか?」
「どんな顔ですか?」
「そんな顔です。因みに今の煉くんの顔は、この人『読心術』でも保有してるのか、という顔ですね」
「持ってるんですか?」
「いえいえこの程度、乙女の必須テクニックですよ」
「......」
煉がどのタイミングで来るかなど、ユラにはお見通しだったようで、空港のロビーで待ち構えられていた。残念ながらこういった人混みでの伝家の宝刀『気配遮断』もユラの前では意味を成さなかった
「それで、鈴さんは一緒じゃないんですか?」
「鈴ちゃんですか? 鈴ちゃんは急用でまだ来ていません」
「急用ですか?」
「ええ、私の口からはとても言えない用事です。依頼でモンスターの素材を納品しなければならないのに、ダンジョンに籠りすぎてその納品日を忘れていたなんて私の口からは」
「言ってますよ」
「ああ、うっかり。まあ鈴ちゃんにはよくあることです。鈴ちゃんの急用は大抵、急に思い出した用事のことですから自業自得です」
「鈴さんらしいですね」
あの戦闘狂は、戦闘が関係しないとかなりポンコツなのだ。
「まあカンファレンスが終わる頃には来るでしょう。楽しみにしててください。あ、何とか逃げ切れないかな顔をしても私にはどうすることもできませんよ?」
「心を読まないでください?」
「煉くんは私に息をするなと言うのですか? 少し見ない間に非道になりましたね」
「言い方を変えます。息をするように心を読まないでください」
そんな日常ポンコツな戦闘狂を唯一制御できるユラは、煉にとってかなり相性が悪い相手であり、珍しく対応に苦戦するのだった。
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とある建物内において何やら準備を進める女性とその様子を寝ころびながら面倒そう見つめる男性の姿があった。
「『スロウ』貴方も早く準備をしなさい。作戦はもう明日に迫っていますよ」
「えー、めーんどー。『ロイヤル』がやればいーいじゃん」
「私はやっています。でも作戦の要は貴方でしょう?」
そう言われると『スロウ』と呼ばれ男性は、起き上がろうとするがすぐに諦め話し出す。
「『ロイヤル』はさー、主人が来るからやる気出るかもーしれないけどー...めんど」
「言いたいことがあるなら面倒がらず最後まで言いなさい。貴方の役割しっかりとわかっていますか? 『スロウ』?」
会話すら面倒になり無反応となった『スロウ』に向かい『ロイヤル』は話し掛けるのだった。




