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君主となりて

 煉が海王を倒すと、ドロップが発生した。ドロップアイテムは指輪であった。『暴食』が通用したため原初スキル持ちではないと考えていたのだが、この指輪の原初スキルを連想させる雰囲気を纏っていた。


「どことなくヴィーナスに似てる? 何か関係があるのか?」


 少し悩みつつも指輪を拾い上げた瞬間、この場所に来たときのように周囲の水に運ばれる感覚を覚える。特に害意を感じなかった煉は流れに身を任せることにした。


 気が付くと選択の間に戻っていた煉。目の前にはウィンディーネの姿もある。


「ルール上、もうここには来れないんじゃないのか?」

「ええ。ルールでこの選択の間に来られる回数は一度までと定められてます」

「なら、何で俺はここに運ばれてきた?」

「このダンジョンは君主制、君主はルールの外にいますので」

「君主になった覚えは…《《これ》》か」

「ええ。このダンジョンはお作りになった方の意向で、ダンジョンボスではなく海の秘宝『海神蛇(リヴァイアサン)の恩寵』の所有者こそ君主であると決められておりますので」


 先ほどまでは子供のような喋り方だったウィンディーネが敬語で接してくることからも、この指輪の重要さが伝わってくる。

 

「『海神蛇の恩寵』の性能は?」

「はい。装備者に海神蛇さまの能力の一部を再現できるスキルを付与します」

「スキル? 何てスキルだ?」

「そのスキルの名前は『妬心』。海神蛇さまのとあるスキルを再現しようとして生まれた下位スキルだと聞いております」

「ふーん。『妬心』か」

「何でも対象を1人だけ定め、その対象の能力を一部再現するスキルだとか」

「…その対象が海神蛇か。対象の変更は…できなそうだな。つまりこの指輪で使えそうなのは海の支配、外部魔力での回復か? また検証しないとな」

「いつでもお待ちしております」

「それでルールに縛られないということは、神殿と沈没船にも行けるってことか?」

「ええ。行かれますか? それならば今、沈没船には来客がありますので神殿から先に行くとよろしいかと」

「ならそうする」


 ウィンディーネに神殿まで連れていってもらった煉は、神殿探索を実施するのであった。

 

 ウィンディーネの言動から幾つのかのことが推測できる。煉にとって一番重要なことは海神蛇の存在である。煉が海神蛇の名が付く指輪1つで君主と呼ばれたことを踏まえると、海神蛇は相当位の高いモンスターであり、間違っても『アトラ』にはいないだろう。つまり


「海底ダンジョンは他にもあるのか?」


 『アトラ』のような海底型ダンジョンであり、『アトラ』より更にレベルが高いダンジョンが存在する可能性が高い。

 煉はその推測を証明する証拠を求め海底神殿を探索する。ただ残念なことに煉は、どれが重要なモノかの判断ができない。そのためそれっぽいモノを片っ端から『亜空』に放り込んでいくのだった。


「うーん。やっぱり困ったら来栖さんか?」


 石碑に書かれた文字は勿論日本語ではなく、そもそも何語かもわからないせいで煉に判断ができないのだ。  

 そのためいつものように煉は来栖に頼むつもりなのであった。


「そういえば『海神蛇の恩寵』をグラルに喰わせると君主の関係とか色々どうなるんだ?」

「やめて下さいね」

「どうなるのか――」

「やらないのだからどうなるかなど、知らなくて良いでしょう?」

「そうか」

 

 煉のちょっとした好奇心からの質問だったのだが、ウィンディーネから予想外に強い圧に負け質問を打ち切ってしまう。ただ強い圧には訳があった。

 もし煉が『海神蛇の恩寵』をグラルに喰わせた場合、それを察知した海神蛇が『アトラ』を滅ぼしにやってきたことだろう。そしてそれを煉に正直に話せばどうなるのか、ウィンディーネはおおよそ正確に予想できているのだった。

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