選択の間
抜穴を抜けた煉は何もない空間に出た。そこには1人の少年がプカプカと浮かんでいるだけであった。ただその少年は見た目に反して凄まじいオーラを纏っており、その少年と似た存在を煉は知っていた。
「妖精種、ここにいるってことは『水妖精』か?」
「せいかーい。お兄さんは初めましてだね。まあルール上もう会うこともないかも知れないけど」
「ルール?」
「あーれ? 知らないの? じゃあ偶然来たのか。幸運なんだねお兄さん」
「よく分からないが何だ?」
「説明は僕の仕事じゃないし、まあ3つから選んでよ。海底神殿、沈没船、海王のどこにいきたい?」
「海王? そんなモンスターが『アトラ』に?」
「そうだよ」
「ならそこで」
煉は3つの内から海王を選択する。
煉がそう選択するとウィンディーネはにこりと笑いながら付近の水を見渡した。
「海王は一番の当たりであり、一番の外れでもあるから頑張ってよ。それじゃあいってらっしゃい」
「さすが水の妖精。水を意のままに操れるのか」
煉は周囲の水に流されるまま進んでいくのだった。
流れ着いた先にいた『海王』。鯨のような見た目で大きさも同じくらいである。しかし纏うオーラは海の王と呼ばれるだけはある。ただ王種の筈の海王だが周囲に家来らしきモンスターの姿がない。
「特殊空間だからなのか、海王の能力が関係してるのか。まあいい。やるか」
「ブオオォォォーー!!」
煉はグラルを海王に突き付ける。海王もそれに呼応するように咆哮した。
―――――――――――――――
煉が海王と戦闘を開始した頃、ウェンディーもウィンディーネの元へとたどり着いていた。
[あれ?]
[ここが選択の間ね]
[ここが選択の間だと知ってるってことは、お姉さんは海の秘宝を目当てに来たのかな?]
[そうね]
[じゃあ進む道も決まってるの]
[ええ、私は沈没船に進むわ。海底神殿にも行ってみたかったから残念だけど]
[そっか。なら行ってらっしゃい]
ウェンディーを水の流れに乗せ沈没船まで運んだウィンディーネは呟く。
「『海の秘宝は神殿の、深く深くで守られて、ある日突然海賊が、神殿詰めかけ奪い取り、彼らの船は帰り道、山にぶつかり沈没し…』えーと何だっけ。僕、この歌の続きうろおぼえ何だよね。昔に来た人にもここまでしか教えてあげれなかったし」
選択の間に来られる探索者は少ない。抜け道を見つけ入っても資格がない者は選択の間に来ること無く戻されてしまうからだ。
そのため過去にこの空間に来た探索者の数は少ない。そのため選択の間でどれを選ぶか悩む者ばかりである。そのため暇潰しにウィンディーネは種族間で伝わる歌を聞かせてあげることがある。ただうろ覚えなのでいつも後半が思い出せないのだ。
「ああそっか。『沈没船から逃げだした、船員まとめてひとのみに、船に宝は残されど、秘宝は山に呑み込まれ、山は海王なりにけり』か…っとそろそろ穴を塞がないと。石碑も書き換えないといけないし。一族の仕事とはいえ面倒だよな。何人か人が選択したら穴の位置とその場所が示された石碑を変えるなんて」
そう文句を言いながらウィンディーネは仕事のため選択の間を後にするのだった。




