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魔力掌握

 煉は魔力で補助しつつ水の壁を蹴ってみる。すると先程よりも強い踏み込みができた。


「まあまあか。ただ一回一回これだと魔力が持たないな」


 魔力を足から放出することで空中を移動するスキル『浮遊』などは存在しており、それらを水中に活用する試みも存在している。問題は『浮遊』など魔力を足場にするやり方は魔力の消費が激しく、継戦能力は低いというのである。ダンジョンを進む上でもグラルを使う上でもそこはネックとなる。

 しかし移動に魔力を活用するという方向性自体は間違っていないと煉は思う。そのとき煉の脳裏に『魔塊理論』が浮かんできた。


『ダンジョンには魔力が満ちており、その魔力によってモンスターが形成されるのではないか』


 残念ながらこの理論は実証されていない理論である。

 ただここで重要なのは前半部、ダンジョンに魔力が満ちているということは事実であるということである。これは過去、外部の魔力を自分の魔力に置き換える実験が失敗したことであまり関心がされなくなった事実ではあるが、自分の魔力と外部の魔力が異なるということは、今のレンにとって重要なことであった。


「外部魔力を利用するスキルって『魔力掌握』だったか?」


 魔力を足場にする。しかし足場にするのは外部魔力。これなら自身の魔力消費は最小限で済むだろう。


「というかグラルの餌を外部魔力にすれば…嫌か」


 何となくグラルが身震いしたような気がした。外部魔力はお気に召さないようである。


―――――――――――――――


 『魔力掌握』は外部魔力を把握、自在に変化させることができるスキルである。そのため煉は 『魔力掌握』で足場とする場所の外部魔力を自身の魔力と反発し合うように変化させる。


「キシャーーー!!」

「足場を気にせず動けるのは楽でいい」

「キシャー? ギェ!」

「及第点か。まだまだ精度が低いな。」


 適性がない者には感知することもできない外部魔力だが、煉の高精度の『魔力感知』ならば感知対象を切り替えることで外部魔力も感知することができた。そのため『魔力掌握』の習得はかなりスムーズに行った。ただスキルの精度はまだまだ煉が納得できるモノとは言いがたい。


「まあいいか。まだまだ時間はある」


 取り敢えず今日のところは引き上げることにした。


 自身の魔力を相手に譲渡する『魔力譲渡』や相手の魔力を吸収する『魔吸』など、自身と異なる魔力を変化させるスキルは存在するが、覚えている者は極端に少ない。『魔吸』に至っては不死者(アンデット)種など限られた種しか使ってこない。単純に性質を変化させるのは簡単だが、完全に同一の魔力に変化させる方が難しいというのは理解しやすい。

 しかしそういったスキルが存在しているということは、外部魔力を回復に利用するスキルも存在している可能性はあるだろう。逆に存在していないのならば、外部魔力は普通の魔力とは異なるという根拠の1つになるのかもしれない。


「まあどうでもいいか」

 

 煉は研究者ではなく探索者であるため、そこら辺の原理はどうでも良い。大切なのはやってみたら水中での移動方法で良さそうなのが見つかったということである。


「さてと、明日からは精度を上げつつ進められる地点まで攻略を進めるか」 


 明日からの本格的な攻略に胸を膨らませる煉であった。

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