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水中戦闘

 終業式が終わったその日に予約していた飛行機に乗り込んだ煉は、ハワイへと飛び立った。到着後すぐに海底ダンジョン『アトラ』に向かおうとする煉であったが、ここで予想外の事が起こる。煉のことを認知している者たちが想像以上に多く、煉は空港で囲まれてしまった。

 煉の認知度は探索者に興味のある層とそれ以外の層でかなりの開きがある。それは偏に煉が自分の名前や顔を売る活動に消極的であるためであった。

 

 そのため探索者への興味が世界的に見ても低めの日本では、煉だと知って話し掛けてくる人の数もそれほどでもなかった。しかしダンジョン強国アメリカでは国民全体に探索者への興味が根づいているのか、あっという間に囲まれてしまう。


「油断してたか…『気配遮断』」


 世界的な英雄の登場でパニックになっていた空港は、その英雄が突然消失したことにより更に酷い有り様となるのだった。



 そんなイレギュラーはありつつも漸く『アトラ』に到着した煉は、ダンジョンの入り口まで運んでくれる乗合船に乗り込む。ここを専業にしている者たちは自身の船を所有していたり、自力で入り口まで行く術を持っている者が多く、『アトラ』の特徴的に専業以外の探索者が来るタイプのダンジョンではないため、船内は煉と船長さんだけであった。


「アンタ、ニホンジンダロ?」

「はい。日本語お上手ですね」

「ソウカ? ニホンジン『アトラ』ニイクナンテメズラシイナ」

「そうですか?」

「アマリムリスルナヨ。シンデカラジャオソイカラナ」

「ありがとうございます」


 そんな船長に見守られながら煉は『アトラ』への入場を果たすのだった。


 煉の『アトラ』入場を見送った船長は懐から取り出したスマホでどこかに電話をする。


[俺だ。日本のレン・カンザキが『アトラ』に来た。目的は分からんがアレが目的の可能性もある。警戒はしとけ。彼の実力なら我々の攻略階層を追い抜かれる可能性もあり得る。此方でも対策は考えるが、くれぐれも団員たちに直接的な真似はしないよう言っておけ]


 ―――――――――――――――


 『アトラ』は物理攻撃を主とする探索者にとって相性の悪いダンジョンである。銃火器はそもそも問題外だが、弓などを代表とする遠距離攻撃は水の抵抗によりその攻撃力が激減する。

 近接攻撃も同様に水の抵抗による影響を受けるが、それ以上に踏み込みに難がありすぎる。『アトラ』の階層は普通のダンジョンと異なり、水の壁で囲われたような構造となっている。水の壁を踏み込んだ際の反発力は地面反力とは比較にならない。水の壁を蹴るくらいであれば泳いだ方がましだろう。


「話には聞いていたが想像以上に厄介だな」


 『アクアリング』で水の抵抗を受けにくくなっており、次元流剣術での移動方法に慣れている煉は何とか適応していた。


「これは水中での効率的な戦い方を模索した方がいいかもな」


 ただ一般の探索者なら早々に引き返してもおかしくない難易度である。流石の煉も上層でここまで苦戦したことは久しくなかった。このまま下層、深層級のモンスターと戦うのは不安が残るため、下に降りるのと並行して水中での戦闘方法を考えることにするのだった。


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