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夏休みの予定

 探索者はモンスターを倒すことで能力が成長していく。そこでよく議論になるのは、その成長によって頭脳に影響はあるのかということであった。結論的には影響はあった。探索者の成長のメカニズムは未だに解明されていないが、モンスターを倒すことによって身体だけでなく、脳や神経も人間離れした成長をみせるため、記憶力なども人間離れした性能となるだろうというのが結論である。

 何故、煉がそんな理屈っぽいことを考えているかと言えば、机に突っ伏し悲しむ友人の姿に申し訳なさを感じたからであった。


「いや、まあ補習がんばれ」

「おかしいでしょ…まあ勉強してないから補習は仕方ないよ。でも煉がその点数はおかしいでしょ」

「直前に見たまとめノートが良かったんだな」

「本当に勉強してきてない奴が取れる点数じゃないよ。全科目9割以上って」



 夏休み前の学生にとって最後の難関、期末試験。優弥は動画編集が忙しくほとんど勉強時間が確保できなかった。そのため不安になった優弥は勉強したかを煉に尋ねた。すると煉は氷華作成のまとめノートを取り出しこう言った。


「何もしてないが準備はしてきた。今から覚える」

「また氷華にノート作って貰ったの?」

「教科書暗記より何倍も点数取れるからな」

「まあ確かにいつもそれで補習回避してるもんね…って他人のこと心配してる場合じゃない。俺も勉強しなきゃ」


 そんなやり取りをし、臨んだ期末試験。ノー勉の2人に明暗が分かれてしまう。

 両者ともそこまで学業に積極的ではないため、いつも以上に勉強しなかった優弥が補習となったのは順当と言えば順当なのだが、前の中間では平均点くらいを取っていた筈の煉が学年上位クラスの成績を取ったことに、優弥は理不尽さを感じるのだった。


「これが性能の違いか」

「後で氷華に菓子折りでも持ってくか」


―――――――――――――――


 期末試験も終わり夏休みはすぐそこまで迫って来ていた。国際カンファレンス後は発行された許可証を有効活用することが決定しているので、その前の夏休み前半の予定について煉は考えを巡らせていた。


「相模ダンジョンの大規模化もかなり進んできたから、籠るのもいいが…長期休みじゃないと行きにくい場所の方が」


 煉が成長させ続けている相模ダンジョンは、他の大規模ダンジョンと遜色無い規模にまで成長していた。そのため煉も詳細を把握できていない階層も存在する。これを機に相模ダンジョンをじっくり探索するのも面白そうではあった。 

 ただ、折角の長期休みのため遠出したい気持ちも存在した。


「氷華はどこか行く予定あるか?」

「『美獣』の美代さんに共同探索に誘われているわね。美代さん曰く女性探索者育成って名目らしいわ」

「影から獣太さんが着いてきそうだな。あの人心配性だし」

「美代さんが厳しく言い含めるそうよ」

「じゃあこないな…あ、ありがとうございます」

「はい、たくさん食べてね。それで何の話?」


 煉が菓子折りを持って氷華の家に訪ねたところ、ちょうど菓子作りをしていた氷華の母、花織に呼び止められお菓子を振る舞われているのだった。


「夏休みなにしようかと思いまして」

「夏休みねー。私が学生の時は…海ね。茜ともよく海に行ってたわ!」

「海ってお母さん。私たちはダン――」

「いやアリだな。海」

「そうよね。やっぱり煉くんは分かってるわ。夏と行ったら海よ」

「海ですね」


 いきなり母の言うことに賛同した煉に驚きつつも、少し思考を巡らせれば煉が何を考えているかは、すぐに思い付く。


「海底ダンジョン『アトラ』ね」


 別名、沈没ダンジョン『アトラ』であった。

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