氷と樹
今をときめく人気高校生探索者パーティー『氷天華祭』の氷華は、とある配信を見ながら難しい顔をしていた。するとパーティーメンバーで氷華の親友である祭が声を掛けてきた?
「また煉のことで悩んでるでしょ」
「祭。そんなこと無いわ」
「別に隠さなくていいのに」
「本当に悩んではいないわ。ただどうすれば煉に追い付けるか考えているだけ」
「わー、今の煉に追い付くつもりなの? 大分遠くに行っちゃったよ」
「無理じゃないと思ってるわ。煉は1人だけど私たちは3人だもの」
「わー、それは私たちの責任重大だ」
『氷天華祭』の成長は著しい。特に氷華は日頃の魔力操作の鍛練のお陰で『魔力感知』と『魔力支配』のスキルを習得した。それらのスキルによって覚醒した氷華は下層クラスならば1人で攻略できるの成長を見せた。このまま全員が氷華クラスとなれば深層でも安全に活動できるようになるだろう。
もし煉が自分たちの倍の早さで成長していったとしても、3人いればいずれ追い付けるのだと氷華は確信しているのだ。そのため今後の活動方針を考えていたのだった。
「そういえばもうすぐ夏休みでしょ」
「そうね」
「最近、ダンジョンの異常が増えたり、探索者業界での問題が発生したりしてる情勢を受けて、国際カンファレンスが開催されることが決定してたでしょ」
「最高峰の探索者たちが一堂に会するって宣伝されてたわね」
「それの若手版も開催されるんだって」
「若手版?」
「そう。世界中の若手有望株が集結するんだって。そのカンファレンスの日本の参加候補の中に『氷天華祭』がいるんだって。参加を希望するかどうか聞かれたんだけどどうする?」
頻発するダンジョンの異常。『Ruler』や『理想郷計画』の影響など様々な情勢が絡み合った末に開催が決定された国際カンファレンス。その若手バージョンも開催されることとなった。そのカンファレンスでは、大元の国際カンファレンスに参加した探索者たちとの交流会もあり、世界最高峰の探索者たちから広く認知される場となることだろう。
「内容はわからないのだけど、特に参加に意義があるとは思えないわね」
「そう? まあ同世代のライバルたちを見るいい機会だと思うけど」
「一緒に探索でもするなら別だけれど、ただ仲良くお喋りするだけなら見たところで何も変わらないわ」
「そっか。まあ大元のカンファレンスには煉も参加しないだろうしね。興味ないか」
「べ、べつにそういう意味で言ってるわけでは――」
「分かってるよ。まあ取り敢えず優衣にも聞いてみて回答しようよ」
結局、優衣もそこまで興味を示さなかったため参加は辞退することを協会側に伝えることとなった。
その日の夜、氷華は煉に電話を掛ける。
「国際カンファレンス? 何だそれ」
「何で知らないのよ。おそらく真っ先に話がいく筈だと思うのだけど」
「…確かに昨日相模ダンジョン行ったら話がどうとか摩耶さんが言ってたな。それのことか?」
「おそらくそうね」
「話を聞く限り興味が湧かないが」
「だと思ったわ」
煉の反応は氷華の想像通りのものであった。
「そういえばこの前『魔力感知』と『魔力支配』を覚えたわ」
「『魔力支配』も? となると深層でも通用するようになるんじゃないか?」
「そうかしら? なら深層に行く前にまた指導してもらっても?」
「勿論。時間作る」
「ありがとう」
そのため安心した氷華は、話題を近況報告に切り替える。煉との大切な語らいの時間。そこにとある邪魔が入る。
「なら今度の夏休み――」
「煉! 茜がご飯だからって言ってたの!」
「うん? 了解すぐ行く。と悪いな氷華。また今度詳細を――」
「誰?」
「何が?」
「今の声は誰かしらって聞いてるのだけど」
「えーと、話すと長くなるが…」
煉は返答に困る。面倒なので適当にごまかしたいが、適当にやりすぎた結果、この前父親から訳の分からないメールを延々と送られ続けるという結果があったので、説明することにした。
「要するにその子を助けるために神秘の森に行って森を攻略したら、懐かれたってことね?」
「助けるためだけに神秘の森に行ったわけじゃないが」
「『宝樹』があればいつでもこっちにこれるからよく遊びに来てるのね?」
「…そうだ」
「そう。分かったわ」
煉はこのモードの氷華を苦手としている。いつもマイペースな煉がこのときの氷華には会話のペースを握られてしまうのだ。
「今度私も煉の家に行くわ」
「別にいいが急に何だ?」
「分からない?」
「…そうか。ドリーが気になるんだろ」
「ええ、そうよ」
「そうか。まあそうだよな。探索者だもんな」
「じゃあ茜さんと朱里ちゃんにもよろしく言っておいて。あとその子にもね?」
「了解」
そして一番苦手なのは、氷華がこのモードになるタイミングが急すぎて、いつなるか分からない事なのであった。




