反発
煉は現在置かれている状況に既視感を覚えていた。探索者仲間から呼ばれたのでノコノコ行ってみたら、そこには今話題の『理想郷計画』のリーダーを名乗る人物がいたのだ。
なんだか『Ruler』の時と同じ感じである。
「京さん、俺がこういう系の話に興味ないのしってますよね?」
「分かってるよ。俺も無理に『理想郷計画』に誘おうとしてる訳じゃないんだ。ただこの人がな――」
「京一郎さま、リーダーより後は我々が用件を伝えるとのことです」
「了解」
「…自分は話すこと無いので帰っていいですか?」
折角の週末のランチタイムを潰されて珍しくイライラしている煉。それを見たリーダーを名乗る男は、笑みを深め通訳の男に何かを言った。
「話だけでもと思いましたが、忙しいのであればしょうがないです。お詫びと致しまして『理想郷計画』の癒しの術だけでも受けていって欲しいと言っております」
「癒し術?」
「はい。こちらのドリーによる癒しの術となります」
[よ、よろしくお願いします]
先ほどから気になってはいた少女がようやく紹介されたが、この幼さで珍しい癒術師であるようである。回復魔法を扱う回復術師と異なり回復系スキルさえあれば慣れる癒術師の方が確かに子供にはなりやすいかもしれないが、『理想郷計画』のリーダーが勧誘の場に連れてくると言うことは、相当凄いスキル持ちなのかもしれない。
「…なら、お願いします」
「はい [やりなさい]」
一応、精神干渉系のスキルであればヴィーナスリングで防げると思うが、念のため『亜空』から気づかれないようにグラルを取り出しいつでも『暴食』を発動できるようにしておいた。
[は、はい『■■』]
しかしここで予想外の出来事が起こる。少女のスキルと煉の持つヴィーナスリングが反発しあったのだ。ヴィーナスリングに『暴食』を発動したときのように。
「え、は?」
[え?]
「いかがでしょうか? 負の感情が吹き飛ぶような爽快さでしょう?」
「あ、はい。吹き飛びましたね。色々と」
「はは、そうでしょうそうでしょう」
そしてこの異常事態に気がついているのは所有者である煉とドリーだけであった。そのためイライラが吹き飛ぶほどの衝撃を受けた煉の言葉を別の意味で解釈するのだった。
「リーダーもドリーの癒しを受けたい場合はいつでも『理想郷計画』に参加してくれと言っております。良い返事をお待ちしております」
「は、はぁ」
「煉、今日は騙すような真似してごめんな。だけどお前にもドリーちゃんの癒し術を体験して貰えば、『理想郷計画』の良さが分かってくれると――」
「いえ、大丈夫です。分かりましたから」
「そ、そうか。じゃ、じゃあ待ってるからな」
そう言って『理想郷計画』のリーダーたちは煉の元から立ち去っていくのだった。去り際のリーダーの顔は自信に満ち溢れていた。
―――――――――――――――
『理想郷計画』のリーダーと秘書は満足げに話していた。その傍らで不安そうな顔をするドリーに目もくれず
[見たか? 神埼煉のあの驚いた顔を。やはりドリーのスキルは最高だな]
[そうですね。勧誘がこれで成功するかは分かりませんが、間違いなく興味は持って頂けたでしょう]
[ふふふ、そうか? 流石、冷静な判断だ。そうだな。そんなに楽観視していては足元を掬われるな]
[あ、あのー]
[ん? なんだドリー? 誉めて欲しいのか? 良くやったぞ、お前のスキルは今、注目の探索者すら驚かせる代物だからな!]
[えーと]
[何だ成功したから褒美を寄越せってことか? 全く。わかっている。お前の住んでいた森林は俺たちが責任を持って再生させるさ。そういう約束だからな!]
[…は、はい]
そのためドリーの話を聞こうともしなかったのである。




